松原さんショート

約30年間勤めた北九州市のラン美容室。オーナーが高齢になり、休業することをきっかけに、お店から独立し開業することを決めました。

10代の頃は聖子ちゃんカットの全盛期。ヘアメイクに興味を持ち、高校を卒業して美容専門学校へ。先生から「あなたに向いている」と紹介された実習先が、ラン美容室でした。女性オーナーはヨーロッパでヘアメイクを学ぶなど意欲的で技術も高く、時に厳しく、時にやさしく育てていただきました。
ただ、10人ほどのスタッフもみんな女性で、職場の人間関係に苦労したことも。店内にはいつもピリっとした緊張感が漂っていて、美容備品を搬入する取引先からは、「大奥」と呼ばれていました(笑)。

時とともにスタッフが入れ替わっていく中で、私だけは同じ美容室で働き続け、気がつけば30年が経っていました。
転機が訪れたのは、2022年。オーナーが高齢になり、美容室を休業することになったのです。店内の設備も老朽化し、このまま営業を継続するには限界がきていました。他の美容室で働こうか、とも考えましたが、「ここで働きたい」と思えるような職場はなかなか見つかりません。何より、平均年齢70代のお客様たちが、自分に合う新たな美容室を探すのは、至難の業です。
「美容室を続けてほしい」
そんなお客様の声に後押しされ、独立開業を決意しました。物件を探していたところ、たまたまこれまでの美容室の数軒隣に空き倉庫があり、借りられることに。外装・内装工事を経て、お客様にも馴染みの名前を引き継ぎ、2022年8月に新生ラン美容室をオープンしました。

スタッフは私1人で、完全予約制。お客様はここで白髪染めをして、髪を切り、ゆっくりおしゃべりをして帰っていきます。何歳になっても、髪を整えキレイになるのはうれしいもの。「ダンナとケンカした」としかめ面でやって来たお客様も、帰るときには笑顔になっています。
最高齢のお客様は95歳。みんな本当に元気で、私のほうがパワーをもらっています。ここが皆さんにとっての居場所になっていることが、とても嬉しい。

50代で手に入れた自分のお店。老後はここにみんなで集まり、おしゃべりをしながら髪の毛を切って過ごしたいと思っています。

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