コラム推し活

最近、会う人会う人みんなに「推しは誰ですか?」と聞いている。
答えは2パターンあって、半分くらいは力士やプロレスラー、K-POPアイドル、お笑い芸人、ひいてはアニメのキャラクターなど、さまざまな推しの名前が返ってくる。しかし、残りの半分は「推し……? 特にいないなぁ」という反応だ。当然だけど、世の中には、推す人と、推さない人がいるのである。

相棒のきしとんが日経ビジネス電子版で「『推し活』市場最前線」という連載を担当しているのだけど、その記事の中で「推しハラ(推しハラスメント)」という言葉が出ていた。
「推しがいて当然」というノリで、「推しは誰?」と聞いたりして、相手に圧力を与えてしまうことは、ハラスメントらしい。
え、そうなの? 
わたしのような推し体質の人間は気を付けなければ、と思った次第。

多様化する「推し」

しかしながら、弁解させてほしい。
わたしがいろんな人の推しを聞くのには、ちゃんと理由があるのです。
「わたしの決断物語」には、Short Storyの拡大版として、著名人に登場していただいている「Short Story PLUS」という企画がある。
このPLUSに誰を登場してもらえばいいのか、いつも悩んでしまうのだ。
といういのも、わたしは趣味がドラマや映画などのエンタメ系に寄り過ぎていて、わたしが企画すると俳優さんに偏ってしまう。

さらに、この10年くらい、「〇〇知ってる?」と人に聞かれて、シンプルに「え、知らない」ということが増えた。SNSが発達し、YouTubeやTikTokなどからトレンドが生まれる時代だ。人々の「推し」は多岐にわたり、すべてを把握するなんてもはや不可能。

ちなみにわたしは、去年のNHKの紅白歌合戦を見るまで、新しい学校のリーダーズの存在を知らなくて、70代の親に「あんた、遅れとるねぇ」と言われた(苦笑)。

だって、彼女たち、ドラマに出てなくない?

そんなこんなで、わたしは自分の趣味嗜好が偏っていることを自覚し、知らないものは知らないと割り切るようになった。だから、みんながどんな人を推しているのか、知りたいのだ。

平成はエモいのか?

推しが多様化した令和に比べると、平成はシンプルだったな、と思う。

年始に知り合いのMちゃんの成人のお祝いをした際に、20歳のMちゃんが「平成っていいよね」としきりに言っていた。
彼女は平成ではやった音楽が好きで、特に宇多田ヒカルさんが大好きとのこと。

「ねえ、宇多田ヒカルが出てきたとき、どう思った?」と聞いてくるので、「それはもう衝撃だったよ。デビュー曲の『Automatic』のプロモーションビデオがテレビでガンガン流れて、あの映像はみんな記憶に残ってると思うよ。でも、衝撃といえば、モーニング娘。に後藤真希が加わったときのほうが……」と、つい昔話に熱がこもってしまった(笑)。

「リアルタイムで知っていていいなぁー」と言われて、ちょっと複雑な気持ちになる。

当時はテレビしかなかったから、テレビに出ている人をみんなで推していた。いまでは考えられないけど、大ヒットしたテレビドラマの視聴率は35%を超えていたし、配信なんてなかったから、リアタイ(リアルタイム視聴)が基本。フジテレビの「月9」ドラマ全盛期には、「東京ラブストーリー」や「ロングバケーション」が放送される日は街から女性が消えると言われていた。
音楽も同じで、テレビで歌番組がたくさん放送されていて、CDもよく売れた。ヒットチャートにランクインされる曲はほとんどの人が知っていた。それって実はすごいことだったんじゃないか? 

そんな時代に誰もが知るヒットメーカーだったのが安室ちゃんであり、宇多田ヒカルさんであり、あゆであり、SMAP、Mr.Children、GLAYなどであった。もちろん、その中でも中居くんかキムタクか、ラルクが好きかLUNA SEAが好きか、みたいな分岐はあったけれども。

誰もが知る人を推していた時代。そこには大きな熱狂があった。

熱狂はより深く。

話を戻そう。
7月にShortStoryPLUSにプロ雀士でMリーガーの瑞原明奈さんにご登場いただいた。この記事が、決断物語始まって以来の大反響だった。Xで瑞原さんが告知してくださったこともあり、投稿した日は1日中通知が鳴りやまないような状態。
麻雀がこんなに盛り上がっているなんて、知らなかったよ!

麻雀についてまったく知らないわたしがなぜ瑞原さんに行きついたのか。それも、わたしの「推しは誰?」の質問によって、編集長コラムでもおなじみの顧問のきゃし先生が「Mリーグが盛り上がってるよ」と教えてくれたのだ。
ちなみに、瑞原さんの次に読まれたPLUSの記事は力士の翠富士関。これもわたしの友達の相撲女子に「推し力士は誰?」と聞いて名前が挙がり、取材が実現したのだった。

そうか、令和の熱狂はここにあったのか。好みが多様化して、知らないことも増えたけれど、“知る人ぞ知る”推しを追いかけている人たちの熱は決して小さくなってはいない。むしろニッチだからこそ、より深くなっているのではないか。

瑞原さんや翠富士関のファンの人たちが記事を読んで、さまざまな感想を投稿してくれた。わたしの決断物語は、そもそも日々を一生懸命生きている、ごく普通の1人1人に光を当てるメディアだ。その中でPLUSという特集は少し異色な存在とも言える。ただ、扱うのは著名人だとしても、それはその人が大好きで、日々推している1人1人に届いてほしい、喜んでほしい、という思いで書いている。

時事ネタは追わないし、特別なニュース性があるわけでもない。ただ淡々と、でも丁寧に、これまで歩んできた人生と、その中の決断に焦点を当てて紹介する。そんな決断物語だから伝えられることがきっとあるはず。そんなことを、PLUSの記事を読んでくれた「推し」の皆さんが気づかせてくれた。

だから、やっぱり教えてほしいのです。
皆さんの推しは誰ですか?(しつこい)

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