石山喜章

2006年1月17日、ライブドア事件が発生。東京地検特捜部が社内からさまざまなものを押収していったその2日後、「どうにもならない現状を変えるためには自分が変わるしかない」と思い至り、千葉県の山奥にある合宿所に赴き、哲学者ノ・ジェス氏の思考法に関するセミナーを4日間受けました。

中学校でのいじめを機に夏休みの最終日に自殺未遂。親を悲しませてはいけないと腕に当てた包丁から手を離したのは15歳の夏のことでした。現実はこれほどまでに地獄であるにも関わらず、なぜ人は生きていかなければいけないのか? その真理を見つけるため、大学では理学部物理学科を専攻。しかし物理学の教授に聞いても心理学の教授に聞いても宗教家に聞いても誰からも答えは得られなかった。「結局のところ、人間の存在に理由はないんだ」と悟った私は、大学卒業後、当時最先端のビジネスを扱っていたアイ・エム・ジェイでホームページ制作の受託開発の営業の仕事に打ち込み、年間1億円という巨額なノルマに対して3億円という実績をたたき出して、オン・ザ・エッヂ(後のライブドア)に引き抜かれました。

渋谷の雑居ビルに入った小さなホームページ制作会社からメディア事業部を立ち上げ、ポータルサイト「ライブドア」を1から構築。気づけば事業を二十数個も立ち上げて、年商1300億円、600人の従業員を抱える急成長企業の幹部になっていました。それなのに、お金と力を手に入れても幸せにはなれなかった。お金欲しさに近づいてくるのは変な人ばかりで、事業の拡大とともに裁判沙汰も増加。数百人規模にものぼる部下のマネジメントにも苦戦しました。

人間不信にもなり悟りを開くしかないと思うようになった私は、日本在住の覚者のもとを訪れては、心の平穏を手に入れるための手法について尋ねて歩きました。しかし彼らが勧める瞑想やヨガ、呼吸法などでは裁判で闘えません。「現場で使える、実践できる何かがほしい」。そう思ったときに出会ったのが、哲学者のノ・ジェス氏でした。はじめて現場で使えるロジックで答えをくれた彼の思考法セミナーが近日開催されることを知り、早速4日間のセミナーに申し込みました。

その週は私の人生の中でも最も激動の1週間となりました。
月曜日、父親から封書が届きました。そこではじめて実家の家計がひっ迫していることを知った私は、涙をのんで数百万円の借金をその日のうちに返済しました。
火曜日、東京地検特捜部が会社を訪れ、社長の堀江貴文氏のデスクから始まり、社内からさまざまなものを押収。
水曜日、マスコミが手のひらを返したようにライブドア社の批判報道をはじめ、「友人」や「知人」の反応が一変していきました。。

セミナーはその翌日、木曜日からのスタートでした。普通に考えれば自己啓発セミナーに通っている場合ではない、と判断したことでしょう。でも私は、「この大きな流れを変えるためには自分が変わるしかない」と直感しました。

――予定通り、4日間のセミナーに出よう。

セミナーから帰ってきた月曜日に堀江氏は逮捕され、株主は元より取引先も従業員も困惑の表情を浮かべ、会議もどんどん荒んでいきました。しかし私の心は平穏そのもの。セミナーで学んだ思考法を実践するとうまくことを収めることができるようにもなりました。私は裁判等の事後処理を終えたあとライブドアを退職し、7年間の修業期間で得た思考法に心理学や脳科学、哲学などをフレームワークに落とし込んだオリジナルのメソッドを開発。その内容を書籍化したところ反響があり、現在は潜在意識についての講座やコーチングを体験できる「潜在意識アカデミー」を立ち上げ、運営しています。

あの日の決断があったから苦しい時代を乗り越えることができ、新たな道を開くことができました。いまはこの経験を多くの人に伝え、「心の社会課題」を解決する人を増やしていきたいと思っています。


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