内田さんショート

私はかつて「色弱」や「色盲」といわれていた色覚特性(色覚多様性)を持ちながら、デザイナーの仕事をしています。2023年12月、デザインの力でより多くの人に色覚特性について知ってもらいたいと考え、オリジナルの折り紙をデザインすることを決断しました。

子どもの頃から絵を描いたり、物を作ったりするのが好きで、将来は美術関係かデザインの仕事がしたいと考えていました。ところが、小学校の健康診断で色覚検査があり、自分が強度の色覚特性を持っていることがわかったのです。

精密検査を受けた眼科の医師は、丁寧に説明してくれました。僕の場合は遺伝による先天性で、赤を見分ける力が弱く、例えばピンクは水色やグレーに見えるということ。

「生活に困ることはないから安心してください。ただ、色を扱う美術関係の仕事は難しいかもしれません」

医師の一言に、僕はひどく傷つきました。急に、自分の夢の前に、分厚い壁が現れたような気持ちになりました。何より、小学生の僕には、いままで当たり前に見えていた世界が、ほかの人とは違っていたという事実を理解し、受け入れることが難しかったのです。自分は青だと思って選んでいた色が、他の人には紫だった。色に裏切られたような感覚がありました。それからは色を選ぶことが怖くなり、モノトーンやシルバーばかりを選ぶようになりました。

それでも絵は描き続け、美大に進む道を選びました。色に関連する課題がうまくいかず悩んでいたときに、塾の先生が「色ではなく形で勝負ができるプロダクトデザイナーという道がある」と教えてくれました。そこで、石川県の金沢美術工芸大学の製品デザイン科に進学。卒業後は金沢の小さな会社でTシャツやスノーボードなどのデザインに携わりました。5年ほどキャリアを積み、東京の大きな会社で働きたいと考え、2007年、29歳のときに博報堂プロダクツに転職しました。

博報堂プロダクツでは飲料メーカーのペットボトルにつけるグッズやビールサーバーをはじめ、さまざまな企画・デザインを経験。色の部分では周囲の助けを借りながら、自身の経験を通じて、誰にとってもわかりやすく伝わるデザインを考える視点が培われていきました。自分でも技術が身に着いたなと感じた2023年、色を伝えるオリジナルの折り紙をデザインしたいと思いつきました。表は普通の折り紙で、裏に色の説明を施したものです。

入社から約15年の間に、ダイバーシティ&インクルージョンの動きの中で、僕の特性は「色覚特性」「色覚多様性」という名前で呼ばれるようになり、人とは違う特性に対する理解は大きく進んだと思います。でも、僕はそれまで自分の特性を周囲に対して積極的にオープンにはしていませんでした。やはり自分にとって色覚特性はいちばんのコンプレックスであり、弱点だという思いを払拭することができなかったのです。特に、デザインを仕事にする上では、大きな障害になると思っていました。

「みんなと同じ一般色覚だったらどんなにラクだっただろう」
「もっと柔軟に、色の提案もできたかもしれない」

そんな思いがずっと心の中にありました。何より、色を選ぶことが、怖い。この恐怖心はなかなか払拭できませんでした。

色覚特性を持つ人は、日本国内に300万人以上いると言われています。僕と同じように悩んでいる人のために、どんな色覚の人でも色が選べるような折り紙を作りたい。この折り紙を世に出す以上、自分自身が当事者として向き合い、経験を伝えていこう。そう覚悟を決めたことが、僕にとって大きな決断でした。
この折り紙を発表したことで、色覚特性をテーマにした取材やセミナーのオファーもいただくようになりました。また、自身の経験や視点を活かし、インクルーシブデザインや色覚多様性に関する発信や商品開発に携わる機会も増えました。
そして、僕自身の心境にも大きな変化がありました。デザイナーとしてコンプレックスだった色覚特性を、独自の強みに変えられるのではないかと思うようになったのです。

「特性も悪いことじゃないな」
そう思えるようになるまで、僕は45年かかりました。だから、いま、人と違う特性で悩んでいる人に対して、「気にしなくていいよ」と軽々しく言うことはできません。それでも、僕みたいに、どこかのタイミングで弱みが強みに変わることもあるよ、と伝えたいです。

色覚は突き詰めると非常に興味深い世界で、この理解が深まると世界はもっと面白くなると思います。2024年にはフォトグラファーの平田正和さんと一緒に、一般色覚と色覚特性の見え方をシミュレーションした写真を併設する「光と感覚」プロジェクトを立ち上げ、YouTubeで発信しました。色覚特性をテーマにしたものづくりを、これからも続けていきたい。そして、多様な人が情報や価値にアクセスしやすい商品やサービス、体験づくりにも取り組んでいきたいと考えています。

(構成/尾越まり恵)

色覚多様性に配慮した、色を伝える折り紙のデザイン note
「光と感覚」プロジェクト YouTube
「色覚特性の“見え方の違い”とは? 当事者が解説するインクルーシブデザイン講座レポート」 博報堂プロダクツサイト

おすすめの記事