営業としての介在価値を高めるため、他の部署との兼任ができる「社内ダブルワーク」の制度に挑戦したところ、ダブルワークの虜(とりこ)になったという鶴井裕之氏。1部署につき半年程度の社内ダブルワークを2年間で3回経験。新しい視点を得て成長し、顧客に対して多様な提案ができるようになった。

営業としてもっとできることがあるはず
新しい視点を求めて社内ダブルワークに挑戦

――まずはこれまでのキャリアと現在の業務内容についてお聞かせいただけますか。

鶴井裕之氏(以下、鶴井氏):大きな顧客基盤を持つ会社でITに関連した仕事がしたいと考え、2019年に新卒でNTTビジネスソリューションズに入社しました。福岡で法人営業からスタートし、3年目からは香川で自治体営業を担当しました。

2025年7月から東京に異動になり、いまは社会基盤営業の首都圏担当として省庁の補助事業、実証事業において、社会実装のためのさまざまな課題解決の提案をしています。まだ異動したばかりですが、国と連携しながらNTT西日本30支店のビジネスをつくっていける業務なので、やりがいを感じています。

――越境活動を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

鶴井氏:香川で自治体営業を担当していた2023年からの2年間で3部署での社内ダブルワークを経験しました。社内ダブルワークとは、本業の部署とは別に、労働時間の20%を他の部署と兼務できる社内制度です。四半期に一度、人事担当者からダブルワークの受け入れを希望する部署のリストが送られてきて、自由に手を挙げることができます。

社員たちが社内ダブルワークに挑戦する動機は大きく3つあり、1つは本業に近い業務で自分の成長につなげること。2つめは、営業担当が経営企画部と兼任するなど、本業から離れた部署で新しい視点を得ること。3つめは、カジュアルにちょっと興味がある部署を経験してみたいという動機だと思います。

私自身は1つめの理由で、とにかく自分のできることを増やしたかった、ということに尽きます。自治体営業は、特定のサービスや商品を売るというよりは、お客様の課題に沿ったソリューションの提案が求められる仕事です。お客様の課題を聞いたあと、SE(システムエンジニア)に相談しながら商品の要件や価格などを決めていくため、ソリューション営業はどうしてもSEに依存しがちなんです。営業はアポを取ってお客様の課題を聞いてくることしかできないのか、とすごくモヤモヤしていました。

「もっと自分にもできることがあるのではないか」と考えていたときに、ダブルワークのお知らせが届いたんです。リストの中に、首都圏の社会基盤営業部門(現在の所属部署)がありました。国の視点を知ることで、担当している自治体に提案できることが増えるのではないかと考え、手を挙げました。

――その後、立て続けに2つの部署でもダブルワークをしています。

鶴井氏:社内ダブルワークを経験してみると新しい視点が身に着くことが楽しく、ダブルワークが大好きになってしまったんです。それで、2024年4月から9月まで「都市OS」という分野を主管しているチーム、2024年10月からの9カ月間はグループ会社の株式会社地域創生Coデザイン研究所でダブルワークをしました。

3つの部署とも基本はオンラインで、定例会や個別の打ち合わせに参加しながら業務を進めていきました。本業とは違う部署の定例会に出席させてもらうだけで、視野が大きく広がります。支店にいると、1つの支店だけの情報しか手に入りませんが、本社にいると全30支店の情報にアクセスできるんですよ。これは反則だなと思いましたね(笑)。全社の動きを知ることができれば、他の支店でいいなと思った方法を香川でも取り入れることができます。

「そんなことまで提案してくれるの?」
顧客から驚かれるほど引き出しが増えた

――ダブルワークで印象に残っている業務はありますか?

鶴井氏:最初に兼任した首都圏の社会基盤営業チームで、毎年支店の営業向けに補助金を使った営業活動の勉強会を実施しており、その勉強会の企画と運営を任せてもらいました。

前年度まで使っていた資料は本社の目線で作られていたので、支店の目線を加えて大幅に変更したところ、参加者からすごく好評で、終了後のアンケートではこれまでで一番満足度が高かったんです。ダブルワークの立場から貢献できることもあるなとそのときに実感しました。本社に長く所属していると、支店の目線が失われてしまうこともあるので、本社と支店の橋渡しのような役割を担えたのではないかと思っています。

――本業との掛け持ちで、業務の調整は大変ではなかったですか?

鶴井氏:大変でしたが、本業の部署の上長も同僚も理解があり、ダブルワーク先が繁忙期に入るときは、フォローしてもらいました。自分が忙しいときに「助けてほしい」と言える雰囲気をつくっていただいたことに感謝しています。その分、自分の手が空いたときは別の仕事で返すようにしていました。ダブルワークで得た知識や情報を本業に還元することも含めて、助けてもらった分は必ず返そうと意識していました。

――社内ダブルワークは本業にどのように生かされましたか。得られた成果について教えてください。

鶴井氏:もう「全部」が本業に生きた、と言いたいですね。例えば、地域創生Coデザイン研究所では、静岡から沖縄まで津々浦々の自治体と関わることができ、ロジカルシンキングと資料に落とし込むスキルが身に着きました。

総括すると、営業の目線で「幅」と「質」が向上したと思っています。「幅」の面では、通信サーバやネットワークという従来の商品だけでなく、カメラ、サイネージ、防災用アプリなどにも幅を広げて提案できるようになりました。それは本社の事業戦略を知ったり本社から30支店を見たりしたことで可能になったのだと思っています。

「質」については、個人ではなくチームで一緒に仕事をした経験から高めることができました。支店は人数が少ないので、個人の裁量に委ねられる部分が多くなります。社内ダブルワークではチームで仕事をすることが多く、他の人の仕事の仕方に影響を受けたり、チームのメンバーからアドバイスをもらったりする機会に恵まれたことで、成長できたと感じています。営業として「自分のできることを増やしたい」という当初の目的を達成することができました。

――「幅」も「質」も向上したら、対峙するお客様の反応も変わりそうですね。

鶴井氏:以前よりも幅広い相談をしてもらえるようになりました。それまでは通信の提案しかできない営業だと思われていたのが、いろいろな提案ができるようになったことで信頼してもらえるようになったのではないかと思います。

一度、観光協会に対して「和式トイレを洋式トイレに変えましょう」と提案をしたことがあるのですが、「そんなことまで提案してくれるんだ!」と驚かれました。
ただ、その提案資料を全社のノウハウ共有システムにアップしようとしたら、さすがに通信インフラと関係なさすぎて、上司から止められました。私が受けを狙いすぎて、ニヤニヤしていたからかもしれません(笑)。

鶴井さん本文内

大阪・関西万博のNTTパビリオンで仕事をする鶴井裕之氏。2019年に新卒でNTT西日本に入社。福岡、香川での営業担当を経て、2025年7月から社会基盤営業部門の首都圏担当


社内ダブルワークによって
自己実現できる選択肢が広がる

――「E-1グランプリ2024」では優秀賞を受賞されました。

鶴井氏:E-1グランプリの開催を知ったのが、ダブルワークで自分が成長できたなと実感できていたタイミングだったので、迷わずエントリーしました。「せっかく出るならプレゼンで爪痕を残したい!」と思ったのですが、エントリー者を見たら、すごい越境活動をしている人ばかりで、「社内ダブルワークでドヤ顔している場合ではないかもしれない」と焦りました。

でもすぐに「普通の人枠」でいこう! と思い直したんです。社外で副業しようと思ってもすぐにはできないかもしれませんが、社内ダブルワークのエントリーならいますぐできます。普通の人を勇気づけたいと思ってプレゼンに臨みました。優秀賞を受賞できたときはものすごく嬉しかったです。

――今後も社内ダブルワークは続けていかれますか。

鶴井氏:いまの上司も、私が社内ダブルワークが好きなことを知っているので、気になっていると思います(笑)。でも、異動したばかりなので、しばらくは本業に集中するつもりです。いまの業務に慣れたら、もちろんまた社内ダブルワークに挑戦したいと思っています。社内でこれだけ複数の業務を経験できたら、転職しようとは思わないですね。社内で自己実現し放題ですから。

Q.越境活動、ひとこと失敗談 

A.「普通の人枠」に徹して臨んだ、E-1グランプリの最終プレゼン。他の登壇者のプレゼンが華やかであればあるほど自分のプレゼンが生きる! と思っていたら、私の前の片江さんが、まさかの自分と同じ普通の人枠だったんです! 慌てて微調整したら、本番で頭が真っ白になり、「忘れました、すみません」と言ってしまいました。たまたまそれがウケたので良かったです。懇親会では片江さんと握手しましたよ。

Q. 越境活動で出会ったおもしろいこと、もの、ひと 

A.E-1グランプリの最終選考に登壇した皆さんです。めちゃくちゃ越境活動をしているのに、NTT西日本に留まっていることが面白いなと思いました。

Q. Q.越境活動に挑戦したいと考えている人へメッセージ 

A.社内の皆さんへ、社内ダブルワークをぜひ経験してみてください! 誰でもできます。一歩を踏み出すと、世界が変わりますよ。

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