高木さんショート

週に1日だけ定時で帰る。これは、生活に音楽を取り戻すための決断でした。

幼い頃からヤマハの音楽教室に通い、音大の電子オルガン科へ進学。卒業後はライブハウスに勤務。ずっと、音楽は私の一部でした。

20代半ばで結婚したのをきっかけに音楽の世界から離れ、一般企業に就職。お客様や企業からの問い合わせ対応でしたが、相手の声や文面からニーズをいち早く察知し、課題を解決できるこの仕事にやりがいを感じていました。
しかし、労働時間の多さにより心身を病み、休職することに。起き上がれないほどの状態から少し回復したとき、テレビから懐かしい音楽が流れてきました。森山良子さんが歌う「さとうきび畑」。作詞・作曲の寺島尚彦先生は、私の音大時代の恩師です。テレビは、数年前に先生が亡くなっていることを伝えていました。

あんなに音楽に夢中になっていたのに、仕事に追われ、恩師が亡くなっていたことすら知らなかった。ショックを受け、そこではじめて、今まで気づけなかった自分の心の声が聞こえてきました。
「音楽を取り戻したい」

会社員として働きながら続けられる活動として、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の合唱団を選びました。ただし、練習の日は定時で上がらなければ間に合いません。勇気を振り絞り「業務を調整するので、週に1日は定時で帰らせてください」と、上司に伝えました。

美しいオーケストラの音に包まれながら歌うことで、私は自分らしさを取り戻していきました。
「声を出すって気持ちいい!」
深く呼吸をして声を出すことで、リフレッシュされていく実感がありました。歌ううちに発声に興味を持ち、アナウンス学校へ通い始めることに。卒業後、フリーアナウンサーとして、司会やCMナレーションなどの仕事をいただけるようになりました。

いまは、さまざまな事情を抱える人たちが、より働きやすい社会になることを願い、自身の経験をSNSで発信しています。
何かを決断するためには、自分と向き合い、ブロックしている要因を1つ1つ取り除いていく必要があります。自分の経験から気づけたのは、「自分はどう生きたいのか」「何に夢中になれるのか」、常に心の声に耳を傾けること、そして小さくても行動することの大切さ。
もし何かに我慢していた自分に気づけたなら、自分を抱きしめてあげることから始めてほしいなと思います。その先には、新しい世界が広がっています。


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