律歌さんショート

IT大手で過重労働を強いられていた26歳のとき、疲弊している私を見かねて、友人が新宿末廣(すえひろ)亭に連れて行ってくれました。落語は初体験でしたが、もともと時代劇が好きだった私は、一瞬で落語の世界に魅了されました。寄席に通い始めたある日、日本初の女性真打、三遊亭歌る多(かるた)師匠の落語を聞き、大きな衝撃を受けます。
「女性でも落語家になれるんだ! カッコいい! 私も落語をやってみたい!」

しかし、どうしたら落語家になれるか分かりません。インターネットで検索すると「弟子入りしましょう」とありましたが、弟子になる方法は書かれていないのです。とりあえず、スーツを着て履歴書を握りしめ、上野鈴本演芸場の階段の下で、歌る多師匠を待ちました。
「親の死に目にも遭えない厳しい世界。落語家なんて、なるもんじゃないよ」。
師匠はそう私を諭しました。でも、私の決意は揺らぎませんでした。

あれから15年。2022年3月に私は真打に昇進しました。ようやくたどり着いた真打として最初の高座は、初舞台と同じくらい緊張しましたが、「この日のことは一生忘れない」と思いました。

厳しい世界でも落語を続けてこられたのは、父との約束があったからです。父が病気で他界したとき、前座修業中だった私は、葬儀に出ることが叶いませんでした。病床からの電話で、父は私に「絶対に真打になれよ」と言いました。先日、父の墓前に報告に行ってきました。「お父さん、私、真打になったよ」。

さて、落語家らしく、最後になぞかけを一つ。
「決断」と掛けまして、「ダイヤモンド」と解く。その心は、どちらも「石(意志)が固い」でしょう。


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