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社外での副業・兼業や大学での学び、社内副業など、社内外でのさまざまな越境活動を称賛するコンテスト「E-1グランプリ」の実施を決めたNTT西日本総務人事部。メッセージを間違えば、会社が「本業をおろそかにしてもいい」と伝えることにならないか。総務人事部長の梶原全裕氏は悩みながらも、社内に挑戦する風土を醸成するためコンテスト実施に踏み切った。

まじめさは大事にしながら
挑戦する組織風土をつくりたい

――まずはこれまでのキャリアと現在の担当領域についてお聞かせください。

梶原全裕氏(以下、梶原氏):私は1991年に新卒でNTTに入社し、1999年に東西に再編成されてからはNTT西日本に所属しています。入社して34年になりますが、その大半はNTT(持株会社)とNTT西日本の人事・労務などの制度設計や運用を担当してきました。2023年6月から現職を務めています。

人事は入社当時から経験してみたい業務の1つでしたが、実際に長く携わってきて、人や制度を通じて会社を変えることができ、そのことが会社やお客様に貢献できることに魅力を感じています。きれいごとではなく、本当にそう思っているんです。そのやりがいを感じられなければ、大変でとてもやっていけない仕事です(苦笑)。

会社には目に見えない「企業風土」というものが存在し、それは時代に合わせて変えていかなくてはなりません。ただ、社内風土は長年にわたりつくられたもので簡単には変えられないので、なかなか手ごわいですね。その社内風土改革にチャレンジし続けています。

――NTT西日本の企業風土とはどんなものですか?

梶原氏:いい面と、少し変えていかなければならない面があります。いい面では、非常にまじめです。そして通信を守ることへのプライドと使命感を持っています。その分、裏を返せば遊び心が少ない。また、NTTというブランドと長年培ってきた土台があるためか、ある意味昨年の業務をそのまま遂行していけるんです。そのため、業務や思考が定型化し変化のスピードが遅いところが一部にあるのでは、と課題を感じています。なので、「新しいことに挑戦し、変えていく」を後押しする風土をつくることで、職場や社員に刺激を加えていきたいと考えています。

本業以外にも挑戦したい
社員の気持ちは止められない

――「挑戦」というキーワードが出ましたが、まさに「E-1グランプリ」は部署を超えて社内外の越境活動に挑戦した人を評価する取り組みだと思います。部下の及部一堯(およべ・かずたか)さんの発案ですが、最初に提案を聞いたときの率直な感想を教えてください。

梶原氏:ミーティングの際に及部さんからE-1 グランプリの話を聞いたときは、正直「え? 何じゃそりゃ」と少しネガティブに受け止めました。腰が引けた、とも言い換えられると思います。

及部さんには「この企画を本当に実施していいのか、葛藤がある」と正直に伝えました。会社として社員に実施していただきたい本業があり、まずはそこにまい進してほしいわけです。E-1グランプリは、本業ではなくプラスアルファの活動をしている人を褒めたたえるということなので、メッセージを間違えると「本業は頑張らなくていいのか」「本業はそこそこで、それ以外のことを頑張っている人を褒めたたえる会社なのか」と捉えられかねないと思ったんです。

――最終的にはE-1グランプリの開催に賛成されました。どんな心境の変化があったのでしょうか。

梶原氏:及部さんと会話を重ねる中で、「越境活動が本業にもいい影響をもたらしている人がたくさんいます」「越境活動によって生き生きと働けていたり、その知見を本業にフィードバックできていたりするんです」という話を聞き、本業にいい影響をもたらして、会社にとっていいことであるならば、社内のメッセージとして問題ないのではないかと認識を改めました。

社員の中には、本業以外に挑戦したいことがある人がたくさんいると思います。その挑戦を会社が止めることはできないし、足かせをかけたくもない。越境活動によって会社も社員もハッピーになるならそれでいいのではないか。何事もやってみなければわからないので、「やってみようか」と及部さんに伝えました。前述した通り、全社的にいまはまだ挑戦の風土があるとは言いきれないので、その風土づくりを推進するためにも「E-1グランプリ」のような企画を実施する意味があると思いました。

ただ、1つだけ及部さんには、「表彰のポイントは、『本業にも良いフィードバックがあること』にしてほしい」とお願いしました。

1つ1つの取り組みを積み重ねながら
社内の理解を促進していきたい

――「E-1グランプリ」の最終選考では審査員を務められました。登壇者の発表を聞いていかがでしたか。

梶原氏:正直、こんなにたくさん応募者が集まると思っていなかったので、まずは「え、越境活動を頑張っている人がこんなにいるんだ!」と驚きました。

プレゼンを聞いて、さらにビックリです。本業だけでも忙しい中で、それ以外の活動をするには熱量が必要です。みんなすごい熱量を持って取り組んでいたので、純粋に「すごいな!」と。20代から60代まで幅広い人たちが人脈作りや地域活性などさまざまなベクトルの課題感を持ちながら取り組んでいて素晴らしいなと思いました。

梶原さん本文内

キャリア採用の社員たちと対話をする梶原全裕氏(写真中央)。 1991年にNTTに入社後、長く総務人事の領域に携わっている。2023年6月から総務人事部長を務める


――「E-1グランプリ」の発表の中には、社外での副業・兼業、大学などでの学びの他に、社内の他の部署で働いたり部署横断の活動をしたりする「社内ダブルワーク」の取り組みもありました。

梶原氏:「社内ダブルワーク」は、本業以外に挑戦してみたい仕事がある人にとっても、他部署から受け入れる部署にとっても、みんながプラスになるのではないかという仮説のもとで5~6年前にスタートした取り組みです。社内制度として全労働時間の2割まで、半年間限定などのルールを設けていますが、受け入れ側には戦力となり、挑戦する側にとっては挑戦意欲を満たしながら知見と人脈が広がるきっかけになっています。

――最初はネガティブに受け止めていた「E-1グランプリ」ですが、実際に開催してみて、いまはどう感じていますか。

梶原氏:実施して本当に良かったと思っています。 E-1グランプリにしても社内ダブルワークにしても、「本業に集中したほうがいいのではないか」という反対意見は社内でもまだあります。そういう声に対しては、趣旨や目的を丁寧に説明して、理解を得ることが大事だと思っています。今回のE-1グランプリでは、及部さんのアイデアで、発表者だけでなく彼らを後押ししてくれた上司の方たちにもスポットを当て、本番で登壇いただいて越境社員を応援する意義について語ってもらいました。このように多くの人を巻き込みながら盛り上げたのは素晴らしいアイデアだったと思います。

理解の浸透には時間がかかると思いますが、1つ1つの活動を積み重ねることで波及していく効果を期待しています。だから「E-1グランプリ」は2025年度も実施する予定です。なお、1回目の登壇者のプレゼンのレベルが高すぎて、ハードルが上がりすぎてしまったかな、と感じています(苦笑)。及部さんとは「より多くの方が応募できるように工夫しましょう」と話しているところです。

元気に働く社員の存在が
会社の魅力になる

――越境活動の取り組みが社外でも評価され、日本の人事部「HRアワード」受賞や東洋経済新報社の「プラチナキャリアランキング」2位などの評価を得ています。採用にもいい影響がありそうですね。

梶原氏:期待したいですね。ただ、新卒社員もキャリア採用も、多様な社員が増えると、受け入れる土壌も必要になります。総務人事部長としては、看板倒れにならないようしっかりと基盤を整えていきたいと思っています。「期待して入社したら、全然違った」と言われてしまうと意味がありませんから。

今後の総務人事部のミッションは、NTT西日本の事業の根幹である通信インフラを支えるプロフェッショナル人材を育成していくことです。そのための人材教育やスキルアップの仕組みづくりにさらに注力していきたいと思っています。同時に、心理的安全性が担保され、社員が働きやすい社内風土の醸成にも取り組んでいきます。

――今後、越境活動に取り組む「越境人材」に期待するのはどんなことでしょうか。

梶原氏:「E-1グランプリ」として会社で褒めたたえるなら本業へのフィードバックが必要だと条件を出しましたが、本音を言えば、会社に良いフィードバックがなくても、本人が生き生きと働いてくれるのであればそれでいいと思っています。それだけで本業にプラスになっていると思んです。そうして元気に楽しく働いてくれる社員がいてくれることが、会社の魅力になると確信しています。

――越境活動の推進を検討している企業の経営者や人事担当者にメッセージをお願いします。

梶原氏:いまの時代、口には出さなくても、社業だけでなくさまざまな仕事にチャレンジしてみたいと考えている人が実はたくさんいると思います。まずはそうした人たちの意欲を、会社として認めてあげてもいいのではないでしょうか。ただ、会社の戦略や制度として一度始めたことを止めるのは難しいことは理解しています。だからこそ、越境活動を認めることに躊躇する企業が多いのだと思いますが、腹をくくって「やる」、もしくは「やめる」を決めていくしかないと思います。その決断は、経営者にしかできないことだと思います。

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