さまざまな制度で越境活動を支援
本業以外の活動を「称賛」する会社
――NTT西日本グループが推奨している越境活動の定義についてお聞かせください。
及部一堯氏(以下、及部氏):NTT西日本グループでは、社内でのダブルワークやボランティア活動、副業・兼業、ビジネスコンテストへの参加など、本業以外のすべての活動を「越境活動」と定義し、称賛しています。社会的に兼業・副業を認める風潮は少しずつ浸透してきたように思いますが、推奨・称賛している会社はまだまだ少ないのではないでしょうか。
NTT西日本グループではこのような越境人材を応援するため各種人事制度を整える一方、2022年3月にはオープン・イノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」を立ち上げるなどして社員の越境活動を下支えしてきました。
――越境活動を支援する具体的な社内制度について教えてください。
及部氏:現在NTT西日本グループには、越境活動に関する3つの制度が整備されています。
1. 社内ダブルワーク制度
2. 副業(兼業)制度
3. リモートワーク制度
社内ダブルワーク制度は2017年頃から整備された制度で、週に業務時間の20%以内であれば社内の別の部署でダブルワークすることが許されています。
副業・兼業制度の歴史は古く、1999年、NTTが東西に分社化された頃にはすでに、農家や酪農家といった家業のある人向けの救済制度として兼業が許されていたことがわかっています。そこから家業ではない副業についても申請方法などが可視化されたことで、副業を申請して副業・兼業をする人が増えていきました。
リモートワーク制度についてはコロナ禍に補強していった仕組みです。在宅勤務等が可能なリモートスタンダード組織の場合「在宅が基本で出社は出張扱い」となる部署もあり、部署に応じてさまざまな働き方ができるよう、フレキシブルな体制が整えられています。
社内外、国内外を飛び回った半生
越境活動は会社にも貢献できると知った
――E-1グランプリの発起人である及部さんは、そもそもなぜこのような越境活動を啓もうしていこうと思われたのでしょうか。
及部氏:僕自身NTT西日本に入社してすぐ会社のバスケットボールチームに所属し、実業団の選手として活動するところから越境活動が始まりました。ところがケガを機に引退し、その後は「総合エンターテイナーになろう」とミュージシャンとして地域のイベントや保育施設等で活動したり、NPO活動で海外に行ったり、レクリエーション介護士の資格を取得し介護施設でさまざまなパフォーマンスを披露したりと20代の頃からさまざまな越境活動に取り組んできました。
「認めてもらえないなら会社を辞めてやる!」という勢いで副業(兼業)制度を導入してもらったのも、元は本業に抱えていたモヤモヤやケガで入院していた際に感じた「社会に恩返ししたい」という気持ちから始まっていました。しかし、次第にさまざまな越境活動を通じて会社にもメリットを還元していけるのではないかと考えるようになりました。
本業の枠を飛び越えてしか得られないことはあるし、それは自分だけではなく社内のみんなにとってもメリットがあることです。外部の人とともに活動している人には意志と行動力があり、人脈があります。大きな会社だとどこで誰が働いているかもわかりませんが、越境活動をしている人たちが可視化されていけば、いままで知らなかった面白い人に出会うこともできる。モチベーション高く何かに取り組む人々の姿に希望を見出すこともあるでしょう。
越境活動なんていうと「自分には関係がない」と思う人もいるかもしれませんが、土日は草野球の監督をしている人、PTAで役員を務めている人、ボランティア活動をしている人、資格取得やスキルアップを目指して学びの場に行く人など、すでに社外でさまざまな活動をしている人たちはたくさんいます。越境活動は本来ハードルが低いはずなんです。プライベートで感じている学校の課題、保護者の課題、社会の課題だってたくさんあるはず。
「副業を通じてこんな成果が出た!」とメディアを通じて発信していったところ、共感する人たちと出会うことができました。また社員の中にも組織としてフォーカスされていない越境人材がいることにも気付き、実はそんな人は氷山の一角で埋もれてしまっているのではないかと仮説を立てました。そこで、総務人事部に異動してきたことをきっかけに、越境活動を称賛して、まだ見ぬ社員のタレントを発掘し、そんなロールモデルをたくさん知ってもらうことで、社員に勇気とモチベーションを与える。さらに越境活動で得たものを社内に還元していける仕組みがあれば、本人にとっても組織にとっても社会にとっても、プラスになるのではないかと考え、E-1グランプリを企画しました。
――及部さんご自身がE-1グランプリを推進していくにあたり、困難だったこと、苦労したことはありましたか。
及部氏:2024年7月に現在の総務人事部に異動することができたので、10月にはE-1グランプリのコンセプトを役員にプレゼンしました。まずはここで最初の関門がありましたね。コンセプトとしては共感してもらうことができましたが「NTT西日本として会社を挙げてやるべきなのか」という疑問にぶつかりました。
そこで自身のこれまでの経験から、越境活動で得た知見・人脈・モチベーションは本業にも生きてくることを説明し、何とか3回目のプレゼンで承認を得ることができました。その後、約1カ月の間に急ピッチで骨子を詰めていきましたが、ゼロベースで作り上げていったので、そこからもいろいろと苦労がありました。
表彰制度1つとっても、まずは社内にある社長表彰制度とその要件について勉強するところから始めました。社長表彰だとハードルが高いため、総務人事部長表彰で進めることにしたほか、副賞を何にするのか、どんな賞をつくるのか、E-1グランプリの告知の方法、評価基準、選考プロセス、審査員やイベント参加者の人選などなど、総務人事部の仲間や社内ダブルワークで兼任してくれていた仲間とともに、すべて手探りで進めていきました。
告知については社内イントラネットでの情報発信をはじめ、会議に議題として上げたりイベントで告知したりするなど「使える手は何でも使おう!」の精神でグランプリの存在を拡散していきました。2024年12月上旬にはグランプリの告知も兼ねて、越境活動について知ってもらうためのイベントも大々的に開催したつもりでしたが、2025年2月に実際にE-1グランプリのファイナルイベントを開催してみると「こんなグランプリが開催されていたなんて知らなかった! エントリーしたかった!」という声も届き、周知の難しさを感じましたね。
可能性を可視化していく
1人ひとりが輝く社会へ

QUINTBRIDGEにて、E-1グランプリの説明をしている及部一堯さん。オープン・イノベーション施設「QUINTBRIDGE」コミュニケーター兼課題解決の実践ゼミ ゼミ長。E-1グランプリ発起人。その他、越境コミュニティ代表、一般社団法人パラレルプレナージャパン共同代表理事、関西大企業有志団体ネットワーク「ICOLA」共同代表、NTT西日本活性化有志団体「NTT-WEST Youth」の初代代表、自ら立ち上げた株式会社パラレルパートナーズの代表取締役なども務める、越境人材の体現者
――実際にE-1グランプリを開催してみていかがでしたか。率直な感想をお聞かせください。
及部氏:応募総数もさることながら、1人ひとりの取り組みのレベルの高さに本当に驚きました。51名の応募者から一次審査を経た12名による最終プレゼンを経て最優秀賞、優秀賞、オーディエンス賞を表彰しましたが、「この会社にこんなに面白い人たちがいたんだ!」と驚くとともに、将来この会社を背負って立つ人たちの素晴らしい取り組みの数々にわくわくが止まりませんでしたね。
実は選考プロセスでは30代以下とそれ以上で区分けして「アンダー30優秀賞」などを設けようと考えていたのですが、「年齢なんて全然関係ないんだな」ということも実感しました。若いから越境活動をしている人が少ないとか、年齢が高いから越境活動の質が高いかと言われたらそんなことは全然ありませんでした。みんなが自分なりの信念を持って取り組んでいて、そのこと自体、とても価値のあることだと感じました。
最終プレゼンはオンラインでも配信していたのでたくさんの方に視聴いただきましたが、視聴者からも「社内にこんなにすごい人たちがいたんですね」「この会社で働くことを誇りに思いました」などさまざまな声をいただき、いい刺激づくりになったのではないかと手応えを感じています。
――NTT西日本グループにおいて、越境活動は現在どれぐらいの広まりを見せていると感じていますか。
及部氏:数字の取りやすい社内ダブルワークについて言えば、2024年の実施者数が305名だったのに対し、2025年は上期だけで既に204名の応募が来ており、前年越えの勢いを見せています。副業(兼業)制度申請数も上期で60件を超えてきており、「越境活動に挑戦してみたい」と考えてくれる人が増えていると感じます。累計ベースでは、社内ダブルワークは全社員の3%、副業(兼業)制度の申請も全社員の1%を超えようとしています。
E-1グランプリについても認知度が上がってきたと感じますし、「E-1グランプリのおかげでいまの自分がいます」と声をかけてくれる方もいて、社内外から取り組みを評価いただけていることをうれしく思います。
――この越境活動は、NTT西日本グループの人材育成支援、キャリア形成においてどのような意義があったとお考えになりますか。
及部氏:結果的にNTT西日本として推進している「全社員総活躍」というコンセプトを後押しできていると感じますし、個人の活躍が会社や社会をより良くしていく、その手段の1つとして人事制度やキャリア支援があると改めて確認することができたと思います。
2025年からキャリア相談活動の一環として「ふらっと1on1」という取り組みもスタートしました。メンターとして登録している人の名簿を一覧で見ることができ、気になる社員に直接話を聞きに行くことができる仕組みです。このような人生の幅を広げるための支援をこれからも続けていきたいですし、さまざまな社員のスキル等を可視化をしていくことにも注力していきたい。人事制度を整えるとともに、キャリア支援、そしてスキル支援にも力を入れていきたいと思っています。
――最後に越境活動を考えている人たちへのメッセージをお願いいたします。
及部氏:越境活動を推進・称賛する活動を続けていけば、入社する志望動機の軸が「NTT西日本に入りたい」という「会社」ベースから「NTT西日本の〇〇さんと働きたい」という「人」ベースに移っていくと思うんです。会社のホームぺージで紹介されるだけでなく、メディアからも取材されるようになり、その記事を読んだ誰かのモチベーションを上げ、人生を変えるきっかけをつくっていくことができる。そんな人になれる可能性が無限に広がっています。自分自身も、会社も、社会も変えられる。そんな「わくわく」を一緒につくっていけたらと思っているので、まずは恐れず一歩踏み出してもらえたらと思います。
※及部一堯氏の越境活動に関連する決断物語はこちら。ぜひご確認ください!









