矢部由季奈

私の決断は、2018年、ロープアクセス事業を続けると決めたことです。

大阪市城東区に生まれ、防水関連の会社を営んでいた両親のもと、3人兄弟の末っ子として育ちました。兄が2人いたこともあり、男子に混ざってサッカーをしたりドッジボールで遊んだりすることの多い活発な子どもでした。小学校高学年になる頃、父が取引先に騙されて事業が失敗。借金を抱えることとなり、電気も止まり、お米も買えないという厳しい生活を余儀なくされるように。その後、もう一度立て直そうと奮闘していた矢先に父は大動脈解離を起こし、私が高校生の頃に志半ばで亡くなりました。

高校のときに始めたアパレル店でのアルバイトを卒業後も続けましたが、当時付き合っていた彼氏に反対されて退職。知人から紹介された富国生命保険相互会社に20歳で入社しました。はじめて大企業で生命保険の営業を始めましたが「茶髪の奴に死んだあとのことを言われても」と相手にされず1年ほどで退職。その後、靴の販売店で勤務するとともに夜はキャバクラでも働き始めました。この頃、現在の夫とも知り合い、社員試験に落ちたことを機に「違う世界を見てみたら?」と夫に言われ、その言葉に背を押される形でビルメンテナンス会社の事務員となりました。

ある日、人員不足で現場に来てほしいと言われ、人が立ち入らないように監視する役としてはじめて作業現場を見ることとなりました。下から外壁の錆び取り作業を眺めていると、茶色い壁の錆びが面白いほど取れていく様子に感動。作業の様子も、作業してお客様に感謝れている様子も「めちゃくちゃかっこいい!」と思った私は、現場からの帰り道に「私もロープアクセス作業をやってみたい!」といろんな人に熱弁していました。夫にも母親にも反対されましたが、部長に相談してみると戸惑いながらも許可していただき、早速社長保有のマンションを使って訓練が始まりました。

屋上でロープの支点を取って、ビルの外壁を伝って降りながら作業する練習を繰り返し、1カ月ほどで現場に出ました。実践では「失敗できない」というプレッシャーもありますし、強風だとロープが揺れてかなり怖い思いをすることもありましたが、思っていた通りのやりがいのある仕事でした。

2021年、ロープアクセス事業は経営不振となり、夫の経営するギアミクスが事業ごと買収。私もギアミクスの社員となりロープアクセス事業の課長に推薦されましたが「絶対に無理!」と言って断りました。メンバー5人は仲良く事業を進めていましたが、顧客窓口だったリーダーの男の子はキャパオーバーになるとイライラするため、彼が怖いと人が辞めていき、最終的には本人も責任を感じて退職。ロープアクセス事業の担当者はついに私1人になってしまいました。

「どうする? 辞める?」と事業の行く末について夫に尋ねられましたが、「人がいなくなったから辞める」というのも何か違うと感じ、とりあえず続けてみようと決めました。1人でこなせる現場から始め、個人事業主の職人さんたちにも助けられながら何とか事業を継続していると、ホームぺージの問い合わせから「自分もやってみたい」と入社してくれるメンバーが現れるようにもなりました。

管理職として人の上に立つのも嫌だったし、顧客窓口となることも電話を取ることさえ嫌だった私ですが、実際に挑戦してみると何も特別なことは必要なく、真心を持って接するだけでいいんだと気づくことができました。「営業やリーダー職といっても、人と人との関係なんだ」とわかると楽になり、人も定着。かつてリーダー職を務めてくれていた男性社員もいつの間にか戻ってきてくれました。

2022年、正式に課長に就任。2025年は大阪・関西万博のパビリオンの仕事が舞い込み、大忙しでした。実は私の父はかつて1970年の万博の際に太陽の塔の補修工事を担当していたことがあり、万博の仕事には思い入れがありました。作業中は厳密な納期がある中で大手建設会社とのやりとりが発生しますし、これまでにない規模の作業員を指揮することにもなり、はじめてのことだらけで本当に大変でした。しかも担当したパナソニックのパビリオンは複雑な骨格に薄い天幕を張るという難しい作業で強風があるとすぐに破れて補修が必要になるなど、開幕期間中もいろいろと大変でしたが、何とか無事故で責任をまっとうすることができました。

これからも変わらず、目の前の仕事に真摯に取り組んでいきたい。雨漏りやサビなどで困っている人々の助けになりたい。現状のメンバーだけでは対応できない案件も多いため、倍以上に増員しながら、困っている人を1人でも多く助けられるよう、全力を尽くしていきたいと思います。

※ロープアクセス:マンションやビルの外壁調査や補修・塗装などの際に、足場を組まずに専用ロープを使用して作業を行う無足場工法のこと。

(構成/岸のぞみ)


株式会社ギアミクス ホームぺージ

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