小磯麻有さんは2015年から、高齢者施設を訪問して高齢者にネイルを施す福祉ネイリストとして働き始めた。基本は手の爪のみのサービスだったが、施設を訪れてネイルをしていると、他の利用者や施設の職員から「足の爪はやらないの?」とよく聞かれていた。
「私は何のためらいもなく、『手だけだよ』『私たちは手だけのサービスなんです』と答えていました。そう答えることが仕事だと思っていたんです。でも、たまたま、自分の心に余裕があったからなのか……、1人のおじいちゃんに同じように『爪はやんないの?』と聞かれたときに、『じゃあ、ちょっと見せてもらってもいいですか?』と答えたんですよ」
そうして見せてもらったおじいさんの爪は、これまで小磯さんが見たことのない状態だった。
「ただ伸びているだけでなく、厚くなっていたんです。色も変形していて、普通の爪切りでは切れない状態でした。おじいちゃんが苦笑いしながら『これ、自分では切れないんだよね』と言っていて、それは誰かに切ってほしいと言うよね……と思いました」
しかし、小磯さんもどう切っていいのかわからない。おじいさんに爪切りができる病院を紹介するしかなかった。
以前勤務していたネイルサロンでフットケアのサービスはしていたが、これまでおじいさんのような爪の人に会ったこともなければ、この症例をスクールの教科書で見たこともなかった。
これまで培ってきたネイルの技術を高齢者の爪のケアに変換していけないだろうか。小磯さんは高齢者の爪のケアについて勉強を始めた。
どんな方法で切ればいいのか。道具は何を揃えればいいのか。考えていたときに、たまたま外科の医師と知り合う機会があった。
「足の爪を切りたいんですけど、どうしたら切れると思いますか?」と相談してみたところ、医師は「病院で足の爪を切ってほしいという患者さんがすごく多くて困っているので、やってみない?」と言った。そこからクリニックで爪切りに携わるようになる。並行して患者の家族や施設の職員の声を聞き、多くの高齢者が足の爪に悩みを抱え困っている現状が見えてきた。