研究者である兄・板宮朋基が開発する最新テクノロジーを活用した防災訓練の普及のため、一般社団法人AR防災を立ち上げました。
高校1年生のときに阪神淡路大震災が発生し、東京に住んでいた私は自分にも何かできることはないかと兵庫県西宮市の小学校で炊き出しや仮設風呂の撤去などのボランティアを1週間ほど経験しました。一方、部活動では合唱部に入り、定期演奏会でミュージカルを演じたことを機に、大学ではミュージカルサークルに所属。東京ディズニーランドのアトラクションでキャストのアルバイトをするなど、俳優業に興味を持ち始めます。卒業後はサークルの先輩が作った劇団に所属しながらイベントMCの仕事や飲食店向けのセミナー講師などで生計を立てていました。
その頃、情報工学が専門だった兄は2011年の東日本大震災を機に、防災アプリを開発。AR(拡張現実)を使って災害を疑似体験できる技術を広めるため学校や市町村での体験イベントを開催するようになると、人前で話すのが得意だった私がMCとしてイベントの手伝いに出かける機会も増えていきました。
そんな2020年4月、新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発令され、当時働いていた会社は休業。給料もこれまでの5割ほどになり、早期退職の募集や部署の閉鎖なども相次ぎました。勤めていたのは全国に営業所があり数百人の従業員を抱える大企業でしたが、そのような会社で働いていてもこのように突然明日をもわからぬ身になることを痛感し、「どうせならやりたいと思うことを突き詰めていきたい」と退職。そして、イベントのたびに反響の大きさと防災意識の大切さを感じていた兄のプロジェクトに本格的に参画。機器の買い取りやレンタルなど大口の受注もあり、ある程度事業としての見通しが立った2020年10月、一般社団法人拡張現実防災普及(現・AR防災)を立ち上げました。
実際の風景に3D-CGの煙や炎を重ねる火災体験、浸水映像を重ねる浸水体験、過去の巨大地震をVR(仮想現実)で見られる地震体験など、ARとVRを活用した防災体験を提供しています。自宅をオフィスにして1人きりでスタートした事業ですが、いまでは東京都渋谷区代々木にオフィスを構え、常駐スタッフ5名に加えて、イベント時には舞台関係のネットワークを中心に数十人のスタッフに運営してもらうなど、事業も拡大。機材のレンタル・販売、そしてイベントパッケージの提供を兄と協力しながら進めています。
これほど災害が相次いでいるいまなお、まだまだ多くの人にとって災害は対岸の火事。本当の意味で自分事化できている人はそう多くありません。また、防災用品などは次々と新商品が発売されているのに、防災訓練はいまだ数十年前と変わらず、形式的に避難経路を確認するに留まっています。今後はAR防災で提供する防災訓練を日本全国の市町村に導入いただき、企業・学校における防災訓練のスタンダードにしていきたいです。国内だけでなくアジア諸国などでも水害や震災被害は絶えません。国内での啓もうがいきわたれば次は世界へ。ニュースを聞くだけでは実感できない本当の防災意識を育てていきたいと思っています。
(構成/岸のぞみ)一般社団法人AR防災 ホームページ