磯村実穂

二度のキャリアチェンジを経て、命に向き合うことを決意しました。

学生時代は手に職をつけたいと考えて看護学部へ。産婦人科で出産を見学させてもらった際に、「人から人が生まれてくるってすごい! 病院の中でも病気ではない人と接する貴重な職種」だと感じ、4年制大学で看護師と保健師の資格を取得した後、助産学校に1年間通って助産師の資格も取得しました。

卒業後、都内の大学病院の産科で助産師としてのキャリアをスタート。緊張感はあるけれど、人や命としっかり向き合い「おめでとう!」と言える仕事はとてもやりがいの大きいものでした。あるとき、切迫早産でクリニックから緊急搬送されてきた妊婦さんが、2~3カ月の入院の末に無事出産・退院したときには「あのときはずっと肩をさすってくれてありがとう。すごく安心できました」とお手紙をいただいたこともあります。

多い人でも一生に数度しかないお産は心身ともに大きな変化をもたらすので、そこに寄り添っていけることはとても大きなやりがいでした。しかし実際の医療現場では、忙しさで手が回らず、患者さんに寄り添えないこともしばしば。また、病院ではどうしても「病気を治す」ことが優先されるため、患者さんに対して、よりホスピタリティを提供できないかと考えるようになりました。

3年半の勤務の中で疲労がたまり、癒しを求めて海外旅行に出かけると、そこで客室乗務員のホスピタリティのすばらしさに感動。そういえば旅行も好きだし、おもてなしで人とかかわることのできる仕事として挑戦してみたかったことを思い出し、思い切って大手航空会社に27歳で転職。ホスピタリティを学ぶため、3年間、国内線の客室乗務員として働きました。飛行機には旅行先に向かう人、出張帰りの人、家族を亡くしてお葬式に向かう人などさまざまな人が搭乗しています。お客様を家族のように思って気にかけ接客する先輩の姿に心打たれながら、自分には到底かなわない、と感じることもしばしばでした。そんな中、コロナ禍に突入。先の見えない中で、再び転職を考えるようになりました。

やっぱりわたしは人と関わり、命と向き合う仕事がしたい。でも助産師として勤務すれば自分が担当できるのは1日にほんの数人で、忙しくなるとそれすらも思うようにホスピタリティを発揮できません。そこで、病院で難しければ、企業の中で働けばもっとうまくできるのでは、と考えました。
そんなとき出会ったのが、赤ちゃんのさい帯・さい帯血を中心に、妊産婦さんが知っておきべきさまざまな情報を発信していた、さい帯血バンク業界最大手である現在の会社・ステムセル研究所でした。ここなら、助産師としての知識と技術、客室乗務員で培ったホスピタリティを発揮しながら、多くの人の命と向き合うことができると確信。2022年に転職しました。

現在はブランディング統括及びサステナビリティの企画・推進を担当し、赤ちゃんのさい帯・さい帯血を預かるファミリーバンクに関する知識を啓もうすべく、Instagramでのライブ配信やパンフレットなどの広報出版物の制作を担当しています。さい帯とは赤ちゃんとお母さんをつなぐ、いわゆる「へその緒」のこと。その中を流れるさい帯血は、赤ちゃんが生まれた数分の間しか採ることのできない貴重なものです。さい帯・さい帯血に含まれる幹細胞は、さまざまな症状の改善やエイジングケアにも役立つとされ、脳性麻痺、自閉症、認知症、糖尿病などへの効果も期待されている再生医療の分野の救世主。しかし、これだけの価値があるにも関わらず、現在の保管率は妊婦全体のわずか1%程度です。

ファミリーバンクの広報活動では、現在許可をいただき、さい帯・さい帯血の保管を決めたご家族のストーリーを掲載しています。保管する意義を知り、それによってこれまで諦めるしかなかった疾患に、治療という選択肢を増やして欲しい。さい帯・さい帯血の可能性はどんどん広がっています。1人でも多くの方に、まずはこの重要性を知ってもらいたい。そのためにいま、命のリレーともいえるさい帯・さい帯血保管の啓もう活動に注力しています。


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