伊崎さんショート

2021年4月、政治の世界を志し、松下政経塾に入塾することを決めました。

自衛官だった父が海外赴任となり小学4年生のときにミャンマーで3年間暮らしました。その経験が、私が政治を志す原点となりました。
途上国のミャンマーでは、街に出ると私より年下の子どもたちが寄ってきて「Money、Money!(マネー、マネー!)」と物乞いをする。その姿に私は衝撃を受けました。日本で享受していた安全で平和な暮らしは、当たり前ではなかったことを身を持って知ると同時に、「なぜ自分は物乞いを受ける側の人間で、ミャンマーの子どもたちは、物乞いをする側なのか」という素朴な疑問を持ちました。親や先生に聞いてみると、どうやらその背景にあるのは政治だとわかり、そこから政治に関心を持ち、本や新聞を読むようになりました。

中学1年生で帰国し、両親の出身地である北九州市で暮らし始めます。かつて100万人都市だった北九州は年々人口が減少しており、まだ若かった当時の自分は、このまま寂れていく街にいたら自分自身まで元気を失ってしまう気がして、大阪の大学を選びました。

卒業後はそのまま大阪で電力会社に就職。その後、社内起業にチャレンジした際に会った起業家たちに影響を受け、2019年に東京のIT系のスタートアップ企業に転職しました。社会課題の解決のために事業を起こし、それに人生を懸けている起業家たちと会ったことで、30歳を前に「自分の人生を懸けるべきことは何だろう?」と考えるようになります。
そこで思い至ったのが、ミャンマーで暮らして以来抱き続けてきた政治への関心でした。

――自分は起業家ではなく、政治家として世の中を変えるチャレンジをしたい。

そう決意して思い切って仕事を退職。しかし、親族や友人に政治家はいません。どうしたら政治家になれるのか、調べていく中で「松下政経塾」の存在を知りました。松下政経塾は、パナソニックの創業者・松下幸之助氏が未来のリーダーを育てるために設立した公益財団法人で、最大4年間の在塾中の活動費は審査を経て塾から提供される仕組みとなっています。

面接で「君の志は何だ?」と聞かれた私は、「日本の閉塞感を打ち破るような存在になりたい」と覚悟を伝え、2021年に松下政経塾の門を叩きました。最初の1年は、神奈川県茅ケ崎市で寮生活が義務付けられており、毎朝5時半に起きて掃除をして、ランニングをする、修業の毎日でした。

2年目以降は、自らテーマを決めて研究とフィールドワークに取り組みます。私は地元北九州市の活性化をテーマに据え、環境が似ている浜松市にて市役所職員として働きながら研究をしたり、起業が盛んなイスラエルで起業家や投資家にヒアリングを行なったりしました。そしてその学びを北九州での活動に生かしていきました。
例えば、毎年話題になるド派手な成人式を観光資源にしてはどうかと考え、「新成人なりきりイベント」を企画したところ好評で、1000人以上の参加者が集まりました。そのほか伝統文化の復興やスタートアップ起業とのコラボなどさまざまなプロジェクトにも参加。そうした活動を通して、10代の頃にはわからなかった北九州の魅力や可能性に気づくことができました。

塾では四半期に一度、合宿があります。やはり朝5時半に起きて掃除から始まり、夜は2時まで飲みます(笑)。思想もさまざまなので、お酒が入ると白熱した議論になることもありますが、「日本を良くしたい」というゴールはみんな同じです。

松下政経塾に入って多くの人と出会い、自分の価値観が多様化し、世界が大きく広がったのを感じます。一般的には議員の秘書から政治の世界に入る人が多いのですが、そうすると1人の政治家しか見ることができません。政経塾では卒業生を含めたさまざまな政治家の方に会った上で自分の進む道を決めることができます。

今年7月に塾を卒業しました。今後は北九州の市政に携わって未来に希望を持てる街をつくり、地方から日本を元気にしていきたいと思っています。

(構成/尾越まり恵)

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