
42歳のときに20年間務めた年収1000万円の大企業を退職し、自分が持っていたすべての安定を自ら手放すことを決めました。
子どもの頃の私は肥満児で、体型に強いコンプレックスがありました。既製品が着られず、母が作る地味な服ばかりを身に着けていたため、友達が着る可愛らしい服をうらやましく思う日々でした。美容やファッションへの憧れは人一倍強く、高校生になる頃には将来美容師になりたいと思うようになっていました。けれど進学校で理系を選択していた私は、母に勧められて東京女子大学数理学科へ進学することを決め、卒業後は日立製作所に入社しました。
私は男女雇用機会均等法の第1期生として入社しましたが、会社はまだまだ完全な男社会。「女はでしゃばるな」「灰皿を替えろ、お茶も出せ」が普通の時代です。仕事は得意で、コンピュータ関連の開発で国際特許を取得するなど成果も出しました。しかし女性というだけで評価は低く、2度の産休・育休を経て復帰すると、かつての部下が上司になっていることもありました。
それでも会社は辞めない。子どもたちに寂しい思いをさせながらここまできたのだから、辞められるはずもない。辞めたらそこでキャリアが終わってしまうかもしれない……。20年前は転職する人なんてほとんどいない、そんな時代です。
子どもを寝かしつけてから会社に戻って仕事をする。そんな忙しい日々に追われるうちに、家庭もうまくいかなくなり、41歳で離婚してシングルマザーになりました。離婚後、張りつめていた糸が切れたように動けなくなり、会社を休職することに。そこではじめて、「自分」と向き合う時間ができました。
これまでの私は、「仕事では理不尽でも我慢する」「家では子どもや家族を優先する」「人からどう見られるかを気にして、期待される役割を果たす」、そんな生き方をしてきたし、それが正しい生き方だとも思っていました。自分がどうしたいかなんて、いつも優先事項のいちばん下だったのです。
――私は、どうしたいんだろう。
考えてみれば、それまでそんなことを自分に問うたことすらなかったのかもしれません。でも、「もうそういう生き方をやめよう」、そう思いました。他人がどう思うかより、私がどう思うかを大切にしてみたい。人を優先する前に、自分の気持ちを大切にしてみたい。残りの人生、私が私のために生きたっていいはずだ!
そう思ったとき、子どもの頃から好きだった美容やファッションのことを思い出しました。「高校生の頃、本当は美容師になりたかった私」「美容誌やファッション誌なら何時間でも夢中になって読めた私」、そんな自分を思い出してホームぺージでいろいろと調べてみると、「パーソナルカラー診断」という仕事があることを知りました。これなら私にもできるかもしれない! 20年以上「こうするべき」で生きてきたのだから、2年くらいは「やりたいこと」で生きてみよう。
こうして42歳のとき、私は20年間勤めた日立製作所を辞めることを決めました。年収1000万円と大企業の信用、安定した生活。それまでの私なら、絶対に手放してはいけないと思っていたものばかりです。当時の話をすると「怖くなかったのですか?」と聞かれることもよくあります。もちろん怖くなかったわけではありません。それでもそれ以上に怖かったのは、このまま他人の目を気にして、自分の気持ちを後回しにしたまま、一生を終えることだったのです。だからこそ私は、安定よりも自分の気持ちを選ぶことに決めたのです。42歳のこの決断は、自分の人生ではじめて、「自分」をいちばんに優先した瞬間でした。あの日から私は、「どう生きるべきか」ではなく、「私はどう生きたいのか」で人生を選び始めました。
その後も、人工股関節の手術、投資詐欺、約1億円の借金を背負うなど、人生が大きく崩れるような出来事は何度もありました。でも不思議と大きな困難が立ちはだかるたびに「だったら、こうすればうまくいくはず」と妙案が浮かんでくるのです。手術で動けないなら、入院中でもできることを、人に会うことがつらいなら会わなくてもできる仕事に挑戦する。そうして生まれたLINEを使ったオンラインパーソナル診断は、現在1000人を超える卒業生を送り出すスクールへと発展させることができました。
振り返れば、人生の転機はいつも、何かを失ったときに訪れました。大切なのは、失ったものを嘆き続けることではなく、その瞬間に差し込んでくる「次の道」に気づくこと。人生には、自分にはどうすることもできないような出来事が必ず起こります。でもその道の先は自分で選ぶことができる。42歳で「自分を選ぶ」と決めてから、私はずっとそうやって生きてきました。そして今、思うのです。人生を変えるのは、何かが起きたからではなく、そのたびに自分が何を選んだか、なのだと。
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