出身は福岡県北九州市。家の近くに「曽根干潟」という大きな干潟があって、トビハゼやカブトガニが住んでいたんです。子どもの頃はよくそこで遊んでいました。いまでも大好きな場所です。小学2年生のときから地元の「小倉祇園太鼓」クラブに所属して、太鼓を叩いていました。
ただ、子どもの頃から極度の人見知り。高校1年生のときに母親が「このままだとどんな仕事にも就けないよ」と言って持ってきたのが、オスカープロモーションが主催する国民的美少女コンテストのチラシでした。
当時の私は特に「芸能人になりたい」といった夢を抱いていたわけではなく、母親に言われるまま応募して、自分なりに全力で頑張ったら、あれよあれよという間にグランプリをいただくことに。のちに審査に関わった方になぜ自分が選ばれたのかを聞く機会があったのですが、「一番輝いてなかったから」と言われました(苦笑)。伸びしろを見ていただいたのかな、と思います。
映画『罪の余白』の出演で
役作りのベースができた
高校1年の冬に母と一緒に上京し、本格的に芸能活動をスタートしました。最初は美少女コンテストに関する取材や雑誌の撮影などの仕事が多かったですね。撮影のために沖縄やパラオ、グアムなどに行っておいしいものを食べる。そのときは半分旅行気分で、正直これが仕事だという意識はほとんどありませんでした。事務所で少し演技のレッスンがあったものの、お芝居は現場で学んでいきました。最初に演技をしたのは映画『ゆめはるか』。病人の役だったのですが、はじめての現場ではじめての演技。ものすごく緊張したのを覚えています。
その映画の中で、病院の先生と話しながら泣くシーンがあったのですが、病院という環境や香りも相まってなのか、自然と心が震えて涙が出てきたんです。「あ、これがお芝居をするってことなのかな」とそのときはじめて思いました。
役者として大きな転機になった作品が、映画『罪の余白』です。私はこの映画の中で、クラスメイトを自殺に追い込む悪女を演じました。
通常、映画やドラマはほとんどリハーサルなしで撮影が始まることが多いのですが、『罪の余白』の大塚祐吉監督は1カ月半ほどきっちりリハーサルをしてから撮影に臨むスタイルでした。リハーサルで、私は悪女として人を傷つけるエクササイズをしたんです。共演の内野聖陽さんやクラスメイト役の人たちに向けて、どうすれば人が傷つくのか、より深く傷つけるにはどうしたらいいかを徹底的に考えました。
「役ってこれくらい深堀して追求しないといけないんだな」
私にとってそれがはじめて真剣に役と向き合った経験となり、いまでも役作りのベースになっています。そのエクササイズを経たことで、本番の撮影でも自分の感情に嘘をつくことなく演じることができました。
このときに、お芝居で大事にしている「感情に嘘をつかない」というモットーも生まれました。自分が経験したことのない役でも、近い感情をどうにかして掘り起こしますし、どんなで役も演じられるように、普段から感情を引き出しに入れていくことを意識しています。
いまは、役が決まったらまず自分が演じる人の年表を作ります。
どこで生まれたのか。両親はどんな人か。姉妹はいるのか。彼氏はできたことがあるのか。
細かく年表を作ったら、そこから声のトーンはこれくらいかな、と役を作っていきます。大変だなと思うこともありますが、いまはもうそれをやらないと気がすまなくなっています。
台本を読み考えてきたことは
現場で一度捨てる
役者としてもう1つ大きな転機となったのが、『罪の余白』とほぼ同時期に出演した、NHKの大河ドラマ『軍師官兵衛』です。私は黒田長政の継室、栄を演じたのですが、長政の母親を演じた中谷美紀さんが、夫である官兵衛を支えたいんだと、私に対して訴えかける1対1のシーンがありました。そのときに、はじめて相手のセリフに対して心が震えたんです。「お芝居ってキャッチボールなんだ」
これも、私にとって大きな発見でした。自分で感情を作るだけではなく、相手からももらうことをはじめて意識した、ものすごく貴重な経験になりました。そこからは、台本を読んで自分で考えてきたことは、現場で一度捨てることを意識しています。
実は私、最初の映画の舞台挨拶のときに、「目標を書いてください」と言われて「一生女優」と書いてしまったんです。そのあと、「書いちゃったな~どうしよう」と思って過ごしていたのですが(苦笑)、それは、仕事としてお芝居をやっていけるかどうか不安で、なかなか気持ちが固まらなかったからです。
でも、『罪の余白』と『軍師官兵衛』を経験してから、役者を続けていこうと心が決まりました。いまは心から、役者の仕事が面白いなと感じています。共演者の方とセリフを交わして息がぴったり合った瞬間は「うわ、楽しいな!」と思いますし、カメラマンさんや音声さんなど、さまざまなプロフェッショナルの方と接することができる現場がすごく好きです。何より、多くの人の力を結集して作品が完成したときの達成感がこの仕事の一番の魅力です。お芝居が嫌いにならない限り、役者の仕事を続けていきたいと思っています。
今後目指したいのは、リリー・フランキーさんのような、清潔感を操れる俳優さんです。リリーさんは同郷の大先輩ですが、歯の抜けたおじさんの役からクールでカッコいいいわゆるイケオジまで演じられていてすごいなと思って目標にさせていただいています。
2012年にデビューして、あっという間に10年以上が経ちました。今後、年を重ねていくことが楽しみです。木の年輪と同じで、人間も経験とともにさまざまなものが自分に刻まれていくと思うので、この先どんな楽しみが待っているんだろうとわくわくしています。もう少し年を重ねたら母親役にも挑戦したいですし、教師役にも憧れがあります。1つ1つの役に真剣に取り組みながら、説得力のある演技ができる役者になっていきたいと思っています。
(文/尾越まり恵、表記のない写真すべて/齋藤海月)
吉本実憂(よしもと・みゆ)
俳優
1996年、福岡県北九州市生まれ。2012年、「第13回全日本国民的美少女コンテスト」でグランプリを受賞し芸能界デビュー。翌13年、TVドラマ『獣医さん、事件ですよ』で女優デビューを果たし、続いてNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』にも出演。サスペンス映画『罪の余白』ではヒロイン役を演じた。また現在放送中のドラマ「消せない『私』-復讐の連鎖-」毎週金曜24:30〜日本テレビ系列に出演中。
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