国際ロマンス詐欺と思われる、（自称）韓国人のセーケン（その1のケースを参照）にブチ切れて疲れ果てた翌日。また、別の（自称）韓国人男性から、Instagramにメッセージが届いた。
「こんにちは！ 私は韓国出身のキムです。12月に日本へ旅行する予定なのですが、何か良いアドバイスをいただけませんか？」
セーケンがひどすぎたせいで、もっとましなヤツはおらんのか、と思ったわたしは、試しにちょっと、とこのキムにも返事をしてしまった。
「こんにちは！ 東京に来られるのですか？ 食べたいものや行きたいところはありますか？」
あれ、キムいいやつじゃん！
このキムが、セーケンとは大違いで、超絶高いコミュニケーション能力を発揮してきた。
最初の段階でわたしがキムをすごいなと思った点がいくつかある。
まず、わたしが韓国俳優のナム・ジュヒョク氏が好きで、除隊を心待ちにしている、と言ったら、「ナム・ジュヒョクの除隊は明日ですよ！」と教えてくれたのだ。
このタイミングの良さと、欲しい情報をくれる素晴らしさよ！と感動したのだった。
ただ、いま思えば、ジュヒョクの除隊日なんて検索すればすぐに出てくるのだが……。
さらに、韓国ドラマにめちゃくちゃ詳しい点もわたしの心をつかんだ。
そして、仕事を聞かれたので、「物書きをしています」と決断物語のポール・キム氏の記事を送ったところ、
「この記事を読み終えました。翻訳は非常に遅いですが、注意深く読みました。マリエさんはとても上手に書くと言わざるを得ません。ポール・キムの物語は、あなたの手によって生き生きと生き生きとよみがえります。読んだ後、物語に共感しました」
と返してくれたのだ。内容にもちゃんと触れていて、あ、本当に読んでくれたんだなと普通に感動した。（ちなみにセーケンにも送ったけど、彼はスルーした）
「キムには絶対にできない仕事なので、マリエさんを心から尊敬します」とか言ってくる。惚れてまうやろー。
あと、名前の呼び方！
セーケンのときと同じように、マリエとハングルとカタカナで伝えたところ、今度は「マリーさん」と言われた。まぁいいかと「マリーでケンチャナヨ（大丈夫ですよ）」と送ったら、「日本語は難しいですね（笑）マリエさん？ 今回は失敗しなかったことを祈ります。あなたの英語名を教えていただけますか？ あなたの名前をもっとうまく翻訳できると思います」
と、セーケンにはまったくなかった誠実さを見せたのだ。メアリーと呼び続けたセーケンの存在も相まって、「キム、いいやつじゃん！」となる。
はい、LINEに移行！（←2回目なので、注意喚起は省略）
江南（カンナム）区在住の社長で、ワインが好きな38歳？
キムは、セーケン以上に、最初から恋人感を出してきた。
翌日から「おはよう。僕は漢江（ハンガン、ソウルの中心を流れる川）を走ってきて、いまコーヒーを飲んでいるところだよ」。
夜は「おやすみ、いい夢見てね。また明日ね」。
わたしが飲みに行って遅く帰ると「心配だからマリエさんが家に帰り着くまで起きて待ってるね」とか言う。彼氏やん。
キムは、何を言っても受け入れてくれて優しいし、日韓のエンタメの交流についても話が弾む。なんだかんだ楽しんでいる自分がいた。
さて、キムの情報を整理しておこう。
ソウル特別市江南区在住の38歳。1人暮らしだが、フレンチブルドッグのトムと一緒。
200人の社員を抱える会社の社長で、医療機器の貿易をしている
（国際ロマンス詐欺の手口③：ハイスペックな職業で信頼を得ようとする。医師、弁護士を語る人も多いらしい）
ワインが好きで、部屋にたくさんのワインがある（←わたしの好みに寄せてきたと思われる）。
そんな人、ドラマの中でヒョンビンやパク・ソジュンが演じる財閥の社長くらいだわ、と突っ込みたくなるほど素晴らしい肩書き。
ただ、やりとりの頻度の多さが気になり、さすがにまじめに国際ロマンス詐欺の手口を勉強しておこうと、警視庁が注意喚起をしている対策ページなどを熟読する。
ありがたいことに、わたしには「それはロマンス詐欺だよ」とちゃんと教えてくれる友達もいたし、韓国に詳しい先輩方が、たくさんの情報をくれた。
・韓国人が英語名を訪ねることはまずない
・キムのインスタのプロフィールの韓国語は自動翻訳を使っている
・キムのインスタの写真にはフリー素材が含まれている
・韓国人は自分のことを「キムは～」とは言わない
どんどんキムの化けの皮がはがれていく。
確かに、メアリーにしろ、マリーにしろ、Marieと変換して読んでいるので、実際には英語圏の人なのかもしれない。
やりとりも、マリエとマリーが混ざったり、すごく自然な会話のときと、AIっぽいときがあって、AIを織り交ぜたり、複数人で担当したりしているのかな？ と思った。まぁ、さすがに朝から晩までやりとりするのは、詐欺側もコスパ、タイパが悪すぎるだろう……。
最初はコミュ力高いなと思っていたキムだけど、「今日はシャンパンを飲むよ。2004年のクリュッグはどうかな？ マリエさんと一緒に飲みたいな」と写真を送ってきて、さらに「うちには2002年もありますが、味は2004年には及ばないと思います」などとハイスペを気取ってくる感じが、だんだん鼻についてきた（笑）。
実際にキムから送られてきた写真
基本、国際ロマンス詐欺はお金を騙し取ることが目的だから、直接会うことはない。でも、変な詐欺サイトに誘導されたり個人情報を抜き取られたりする可能性もあるから、気を付けつつ、どこかできちんと手を引かなければ、と思っていた。
でも、毎日イチャイチャとやりとりをする中で、どのタイミングで、どんなふうにお金を求めてくるんだろう？ という興味が勝り、なかなかやめられずにいた。
「今日、おもしろいことがあったんです」
いろいろ調べてみると、相手に惚れさせるためにやりとりをする期間はだいたい1カ月くらいだと書いてあったけれど、キムとのその日はわりと早くやってきた。
水曜日の夜からやりとりを始めて、日曜日の夜だったから4日目。
ゴルフに行き、そのまま友人と焼肉を食べて帰ったというキムが突然こんな話をしてきた。
「今日友達と夕食を食べているときに面白いことが起こりました」
「何ですか？」と聞くと、かつてないほどの長文が送られてきた。
「今日の出来事は次のとおりです。
今日食事中、インスタグラムで友人がロシア出身の女性と楽しそうに話しているのを見たので、何気なく「これが彼の彼女なのか？」と聞いてみました。
友達は、知り合ってまだ3日しか経っていないと言いました。 そしてロシア出身のこの女性はインスタグラムで彼を仮想通貨への投資に誘っていた。
現在、インスタグラム上で仮想通貨投資詐欺が多発しているので、奇妙に感じました。それで私は友達の携帯電話を手に取って見ました。
なぜなら、私は金融大学を卒業し、多くの投資の仕事に携わってきたからです。そして、投資にはトレンドを分析するための特定の専門知識が必要であることを私は知っています。これは投資と呼ばれます。やみくもに投資をすると、資産を失い、騙されてしまいます。
その結果、一度見ただけで、これが詐欺であることは明らかでした。
初めて見たときは笑いました。こんな詐欺に騙されるわけがないですから。
そこで私は友人のインスタグラムアカウントを使って激しく反撃しました。彼らを言葉を失ったままにしておきます。笑」
あー、ついに来てしまったか、と思った。そこからは、こんな感じでやりとりをした。
マリエ「おー、それはいまはやりの国際ロマンス詐欺ではないですか！大変！」
キム「恋愛詐欺……そんなんじゃないよ。笑。あまり言いたくないのですが、こんなことが私に起こりました。私の友人が遭遇したのは、インスタグラムで頻繁に起きている仮想通貨詐欺でした。あなたはジャーナリストだから知っておくべきだと思う」
マリエ「いろんな詐欺が横行していますね。気をつけなくては」
キム「もちろん！これは私たち一人ひとりが注意を払わなければならないことです。このような投資詐欺はばかばかしいと思います。このようなことに遭遇したら、必ず私に聞いてください。少なくとも私は真実と偽りを見分ける専門的な知識を持っています」
マリエ「ありがとう！私は投資にはまったく興味がないので、大丈夫です。わたしの会社には優秀な弁護士さんもついていてくれます」
一応牽制したつもりだったのだけど、
「どういたしまして。少なくともある程度の金融知識があれば、多くの悪いことが起こるのを防ぐことができます」
と送られてきて、さらに投資の話が続く。
キム「でも、日本政府がNISAへの投資を奨励しているそうですよね？」
マリエ「そうなんですか？ 投資には疎くて……」
キム「はい、経済ニュースをよくチェックしているので。NISAは日本政府が推奨する投資事業ですが、リターンが低く長期投資が必要です。マリーさんは本当に投資に興味がないんですね！（笑） 時間があれば、やはり必要な知識を学ぶ必要があると思います。もし望むならキムが教えてあげるよ」
（国際ロマンス詐欺の手口④：投資の話を持ちかけてくる。旅費など細かいお金から求めてだんだん金額が大きくなるケースも）
なんか微妙にディスられてるし（笑）。これまでの楽しかったやりとりから一気に興ざめしてしまい、「今日はもう疲れたから寝ますね」と切り上げた。
この一連の顛末を、いろいろ教えてくれた韓国に詳しい先輩たちと共有しつつ、
「キムが教えてあげるよ、がツボ！」
「キムの家に遊びにおいでよ！とも言ってましたよ」
「旅館か！（笑）」
と一盛り上がりしたあと、そっとブロックした。
さよなら、キム。
LINEのやりとりだけで恋に落ちるのか？
今回、2人のロマンス詐欺とやりとりをしながら、自分の中で分析したかったテーマが、「LINEのやりとりだけで、恋に落ちるのか？」ということだった。
結果、わたし自身の結論は、「NO」。
キムとの最初のやりとりは多少キュンキュンしたけれど、やっぱりAIやbotと話している感覚はぬぐえなかった。実態がないというか、人間の温度を感じないというか。
会ったことがないから、LINEのコメント1つ1つも、どんな表情で、どんな声で言っているのか、想像できない。
もちろん、触れ合えないから実際に体の温度を感じることもできない。
それでも、実際には国際ロマンス詐欺の被害は後を絶たない状況だ。
わたしみたいに、興味本位でやりとりするのも、本当はダメ（説得力なくてごめんなさい）！
いまもし、これを読んで「もしかしたら？」と思う人がいたら、即ブロックしてほしいし、お金をもし送金していたら、警察や弁護士などにすぐに相談してください。
わたしは周囲のみんなの情報にも助けられたけれど、1人だったら、さみしかったら、信じてしまうかもしれない。
つい最近も、韓国俳優を装った男性からのメッセージを受け取った女性が、やりとりをする中で恋愛感情を抱き、540万円を騙し取られたとニュースになっていた。
推しへの愛につけこむなんて、許せない。
第三者は、「そんな詐欺に引っ掛かるなんてバカだな」と思うかもしれないし、被害にあった人は、「なんで信じてしまったんだろう」と、自分を責めているかもしれない。
でも、悪いのは間違いなく、詐欺をする人だから！
今回、国際ロマンス詐欺の手口をわりと細かく紹介できたので、このコラムが多少なりとも詐欺防止の一助となることを願いつつ……。
わたしはもう2度と、国際ロマンス詐欺には関わらないことをここに誓います。
（これ、顧問弁護士の先生に怒られるやつだーーー。ひぃぃ）
