仕事に夢中になりすぎたために大きな病気を患い、一時は生死をさまよった榎本淳子(エノジュン)さん。13年間勤めたリクルートを辞め、環境を変える決断をした。最終回となる第3回では、決断後の心境の変化を追いながら、転職からの4年間を振り返る。
大好きだから、距離を置こうと決めた
使命感と責任感が人一倍強い。これはエノジュンさんも認めている自身の性格だ。クライアント企業や地域の課題解決を担う中で、ある人に言われた言葉が、ずっと心に残っている。「知る責任がある」
抱える課題を知った以上は、解決のために行動を起こさなければならない。その責任を理解した上で、知る覚悟はあるのか、と。
関わった人の生活がより良くなるように。そう願えば願うほど、自分の暮らしが置き去りになっていった。
2018年4月、膵臓に腫瘍が見つかり、手術をして切除。幸い良性で手術は成功したものの、その後、合併症を引き起こし、一時はICU(集中治療室)で生死をさまようことになる。
3カ月の入院期間を経て、10月にリクルートに復帰。仲間たちは彼女の復帰を喜んだ。
「生きてた!良かった!みたいな感じで、みんながすごく喜んで迎え入れてくれました」
しかしその2カ月後、エノジュンさんは転職を決断する。
「まずは、大好きだった会社を離れることが、仕事と少し距離を置くきっかけになればと思って、転職を決めました」
簡単に決心がついたわけではない。新卒から13年間を過ごしたリクルートに対しては、さまざまな思いがある。
「学生の延長みたいなところから社会人へと育てていただき、スキルを高めてもらいました。お兄ちゃんも妹もいて、お父さんもお母さんもいる。あ、近所のおじさんみたいな人もいますね(笑)。私にとっては、本当に家族のような存在でした」
転職先に選んだのは、オープンイノベーションのプラットフォームを提供するベンチャー企業。ビジネスを育てるスキルを身に着けられることと、自由な働き方ができることが決め手になった。
グループ5万人のリクルートから、当時4人のベンチャー企業へ。リクルートしか知らなかったエノジュンさんにとっては、大きなカルチャーショックだった。
「社長がそんなことまでするの? みたいな。毎日が驚きの連続でした」
転職後、1年余りでコロナ禍に突入したこともあり、エノジュンさんの生活は、リクルート時代とは大きく変わった。
特に病気になる前までは、夫とは夜に一度、顔を合わせるかどうかという生活で、生存確認はしているが、会話もほとんどなく、お互い仕事に没頭していた。
「コロナ禍になって、2人ともリモートワークになりました。夫婦2人で朝から晩までずっと一緒に過ごしたのは、結婚してから初めての経験でした。夫が急にご飯を作り出したりして、え、実は料理できたんだ! みたいな(笑)。
楽しかったんですけど、何かお互い共通の楽しみが欲しいし、何かを育てていくような感覚がほしいよね、という話になったんです。
私は死んじゃうのが悲しいから嫌だなと思ったんですけど、夫がワンちゃんを飼いたいと言って、犬を飼うことにしました」
2020年5月、3人目の家族として、トイプードルのもふまるを迎え入れた。
夫婦で子どもを育てる自信がついた