朝起きられない自分のために、朝起きなくてもいい会社を19歳で起業し、36歳のとき、福祉事業に参入することを決めました。
幼少期から朝起きるのが苦手な体質で、12歳の頃から症状を感じ始め、30代後半になってたまたま行った眼科で起立性調節障害だと知りました。ベッドに入ってから眠りにつくまでに4時間、起きてから起き上がるまでに2時間かかるため、睡眠時間は毎日2~3時間。小学校も中学校も毎日遅刻で、高校からは単位を計算しながら遅刻するようになりました。
高校卒業後、2000年に立命館大学理工学部に入学し、その5月に起業。入学式で後ろの席だった友達と2人でパソコンの出張サポート事業を始めました。朝起きることが苦手だったので、普通の会社に就職できないのではないかという不安を常に抱えていました。そこで、「朝起きなくても怒られない仕事」をするため、やりたくないことを徹底的に排除した結果、起業という結論に至ったのでした。当時漫画喫茶が増加していたため、モニターを漫画喫茶に運び入れ、タワー型のパソコンを設置、ソフトウェアをインストールするなどPCセットアップの仕事を主軸に据え、漫画喫茶の拡大に伴って順調に売り上げが伸びていきました。
他にも、大学の公開講座の検索申し込みができるプラットフォームや知らない番号を検索できるWEBサイトの制作などさまざまな事業を立ち上げては売却していきました。中には月間300万PVを誇るようなサイトもあり、ビジネスを作っては1000万円で売却する、といったことを繰り返しているうちに、とある勉強会で知り合った著名な作家の先生に「屋内軽作業は就労支援施設の人たちにお願いするといいよ」と教えていただきました。「安い賃金でしっかり仕事をしてもらえるならコスパがいいかもしれない」と考え、実際に海外から仕入れた商品を日本用のパッケージに入れ替えて梱包し直す作業をお願いするようになりました。
事業が軌道に乗り始めた36歳頃、年末に神奈川県の箱根に行ったときのことです。神社で見かけた1枚の絵馬に「じっとすわってられますように。しゅうしょくできますように」と書かれているのを見つけました。「え? 動き回ってても就職できるよ?」と不思議に思いました。この子は、ちゃんと座っていられないと就職できないと思っているんだな――。そう思うとともに、「ちゃんとしないと就職できないよ」と散々母に言われて育ったかつての自分をそこに見ました。
――「やる気がない」のではなく、「どうしてもできない」ことに苦しんでいる人がいる。自分と同じように、普通の働き方ができないことで苦しんでいる人の力になりたい!
こうして、就労継続支援B型事業所「ワンダーフレンズ」の立ち上げに至りました。自分がこれまで手掛けてきた小さい事業を立ち上げてバイアウトするという仕組みは福祉サービスと相性がよく、現在8年目ですが一度も売り上げが下がったことがありません。
例えば、大阪市の天王寺動物園での清掃作業や、クリーニング工場で竹田薬品のユニフォームを洗う仕事などをお願いしていますが、名のある企業に関わる仕事ができていることは、本人は元より親御さんも喜び、働いている姿を記念にと写真撮影に来る方もいます。福祉施設では無理だと言われた事業もありましたが、その事業もいま4年目を迎えています。
学校に行けなかった人、いじめられていた人、家で虐待されていた人、家族とごはんを食べたことのない人。そんな人たちがたくさんいます。スーツを着たことのない人にスーツを着る仕事を、運動会に出たことのない人に運動会を、花見をしたことがない人に花見の経験をしてもらえるように会社でそのような機会も提供しています。倉庫で袋詰め作業か清掃作業しかできないと思っている人に違う世界を見せてあげたい。2030年度には売り上げ100億円、年間25拠点開設ベースで拡大し、「見捨てられた孤独」をなくす社会を作っていきたいと思っています。
書籍『ゆるこもりさんのための手帳術』熊野賢・著(ぱる出版/2025年刊)
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