木山先生ショート

40歳のとき、弁護士から専任教授へとキャリアチェンジしました。これは私の人生において、非常に大きな決断だったと思います。

司法修習を終えて、弁護士としては珍しい、税務を扱う法律事務所に入所しました。税務を扱う弁護士は主に、税法の解釈をめぐり、国と戦います。国内でも最高裁まで争うような事件を担当できる弁護士はわずかですが、私は2年目で最高裁の法廷に立ち、3年目には最高裁判事の前で10分を超える弁論をして、逆転勝訴するという貴重な経験ができました。その判例が、いまリーディングケースとなり、学生たちが学ぶ教材にも使われています。10年の弁護士人生で、勝ったこともあれば負けたこともありますが、この仕事にとても大きなやりがいを感じていました。

「大学の専任教授になってほしい」
非常勤講師として税法を教えていた青山学院大学から、思いがけないお声がけをいただいたのは、40歳になった直後のことでした。突然のことで大変驚きましたが、一方で、「これはチャンスかもしれない」と思った瞬間でもありました。年齢的にも、新しいことにチャレンジしてみたいと思っていたからです。30代は、自分のために働いてきた。40代は人のために仕事をしよう、と、未来の弁護士や税理士を育てる大学教員の職に就く決意をしました。

とはいえ、大学は未知の世界です。返事をした後も、不安でいっぱいでした。
実際、着任してすぐは、これまでとあまりにも環境が違いすぎて戸惑うことばかり。最初の1年は、外国に行っているような気分でした。ようやく慣れてきたなと感じたのは、3年が過ぎた頃からです。

大学教授になって、今年で8年。同じ税法を扱っていても、弁護士と研究者では全然違います。それぞれいい面・悪い面がありますが、個人的には大学が合っていたかな、と思います。弁護士の場合、訴訟では代理人として勝つか負けるかの結果しか残らないのに対し、学者の論文は個人の名前でさまざまな場所で引用・参照され得る力があることが、魅力の1つ。そして何よりも、大学4年間を通して、学生たちの成長を見られることに、大きな喜びを感じています。

まずは10年、弁護士と同じだけ大学教授を続けたときに、本当の意味で、この決断の答えが出るのではないかと思っています。

木山泰嗣 Twitter

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