高専時代は競技プログラミング
入社後は開発イベントで技術を磨く
――まずは現在の業務内容についてお聞かせください。
柏木まもる氏(以下、柏木氏):私はクラウドサービス、ストリーミングサービス、ハウジングサービス、新規ビジネスなどを手掛けるNTT西日本の子会社、NTTスマートコネクトに所属しています。現在はサービスオペレーション部でクラウドサービスやアプリケーションの開発、基盤の運用などを担当しています。
――越境活動を始めようと思ったきっかけはどこにあったのでしょうか?
柏木氏:入社間もなく先輩社員から「ITの勉強会に参加しない?」と誘われたことがきっかけで、エンジニア向けの開発イベントに参加するようになりました。中でも好きだったのが「ハッカソン」というイベントです。
ハッカソンとは「ハック」と「マラソン」を掛け合わせた造語で、特定のテーマに基づき企業や地域の課題を解決するようなプロダクトのプロトタイプ(試作品)を開発し、成果を競うエンジニアやデザイナー向けのイベントのこと。土日に開催されるものが多いですが、長期のイベントになると1週間かかるものもあり、中には3カ月ほどかけてプロダクトを開発するイベントもあります。
私は中・高生時代からゲームを作りたいと考えてプログラミングを学んでおり、高等専門学校に進学してからは競技プログラミングにも参加していました。もともとプロダクトを開発するようなイベントに興味があったため、NTTスマートコネクトに入社した翌年の21歳の頃にはもうハッカソンのイベントに参加するようになっていたんですよ。
「未来ゴミ箱」で最優秀賞を受賞
社内では「猫部」を立ち上げた
――その後、どのように越境活動を進めていったのでしょうか。
柏木氏:2019年頃に開催されたハッカソンで、街中にゴミ箱が少ないという課題感から「未来ゴミ箱」というアイデアを思いつき、開発しました。「未来ゴミ箱」はLINEで電子決済をするとモーターでフタが開いてゴミが捨てられる製品です。その後、このハッカソンの協賛企業の1つだったローム株式会社が主催するコンテスト「ROHM OPEN HACK CHALLENGE 2019」で「未来ゴミ箱」のアイデアをさらにブラッシュアップさせて発表したところ、最優秀賞を受賞することができました。賞金をいただいたほか、先端技術やアプリケーションを紹介する国内最大規模のデジタルイノベーションの展示会「CEATEC(シーテック)」に展示されるなど、話題を集めることができました。
ハッカソンで活躍できるようになると社内でも話題になりますし、面白い企画やプロジェクトにも呼ばれるようになります。そこで身に着いた知識やスキルは本業にも生かすことができるので、どんどんのめり込んでいきましたね。
自分にスキルがつくと、今度は「後輩の活躍のきっかけをつくれるような人間になりたい」と考えるようになり、後輩をIT勉強会に誘ったり、ハッカソンへの参加を呼びかけてみたりするようにもなりました。
――ハッカソンを通じて若手エンジニア育成を進めるうえで最も苦労したのはどのような点でしたか。
柏木氏:「IT勉強会に一緒に行こう!」と誘っても「また今度誘ってください」と断られ、「ハッカソンは楽しいし勉強になるよ!」と声掛けをしても参加者0人なんてこともザラにありましたね。当初は全然人が集まらなかったんです(苦笑)。
そうこうしている間にコロナ禍に突入。直接交流する機会が減った結果、特に新入社員はさまざまなイベントに参加する機会が限られるようになりました。メンタル不調が話題になっていたこともあり、「みんなの癒しになれば」と社内のチャットに飼い猫の画像をアップしていく活動を始めました。実は私は義理の両親と二世帯住宅で暮らしているのですが、自分も妻も妻の実家も猫好きで、保護猫を4匹飼っているんですよ。
2021年度下期、個人のスキルアップや人材育成を目的とした、自発的かつ実践中心の活動を推奨する育成施策として「クリエイティ部」が作られたため、メンバーを勧誘してクリエイティ部の活動の一環として、正式に「猫部」を立ち上げ、業務・プライベートともに対外活動の支援を開始しました。全体の10%以内であれば新規ビジネスの種になりそうな活動を業務時間内に実施することが許されるようになったため、猫の飼い主がほしそうなプログラムを作ってみることからスタートしました。
――猫部での活動はどのようなものだったのでしょうか。
柏木氏:猫がどれだけごはんを食べたかを計ることのできる「美味しいにゃみー」、猫のパペット(ぬいぐるみ)の中に基盤を入れて、猫の鳴き声や猫の足踏みを実装したりするぬいぐるみの開発など、これまで数えきれないほどのハッカソンやコンテストに参加し、アイデアを実現してきました。
2022年頃からは若手社員を猫部に勧誘し、毎週火曜日に1時間、オンラインでミニ発表会を実施してもらったり、参加のハードルが低そうなハッカソン・コンテストへの不定期参加を促したりしながら活動を拡大していきました。NTTコムウェア(現:NTTドコモソリューションズ)と技術交流会を企画・開催し、2024年にはNTT西日本グループのコミュニケーションツールTeams内にハッカソンコミュニティも作りました。
かつて誰も参加してくれなかったイベントですが、2024年度にはついに「ハッカソンに興味があります」と言ってくれる若手もたくさん出てきて、手ごたえを感じています。

プライベートでは義両親とともに保護猫を4匹飼っている猫愛好家の柏木まもる氏。猫好きが高じて猫関連のプロダクト開発にも勤しんでいる。NTTスマートコネクト株式会社 サービスオペレーション部 プラットホーム担当。高等専門学校を卒業後、2014年にNTTスマートコネクトに入社。2024年度E-グランプリにて「ハッカソンで多数受賞した知識・経験をもとに、若手エンジニアの対外活動を」と題して活動内容を発表。奨励賞を受賞した
趣味の延長が本業につながった
年齢が上がっても現場にいられる!
――実際に越境活動に挑戦してみてご自身の中で何か変化はありましたか。
柏木氏:業務で新しい技術を学びたいと思っても1人だとモチベーションが上がらないこともあります。そんなとき、ハッカソンなどに参加すると社外の人の知見を得ることができますし、学んだ技術を業務に生かすこともできます。エンジニアはベテランになるにつれてマネジメントスキルを要求されるようになり現場を離れることも多いですが、そのようなもどかしさも越境活動を通じて常に現場にいられるため、解消されます。
E-1グランプリではそうそうたるメンバーの活動が発表される中で、自分自身の活動を評価していただけたことはうれしく思いますし、自分がイベントで表彰されているのを見て、「E-1グランプリやハッカソンに参加してみたい」と言ってくれる後輩も出てきたので、当初考えていた「いいきっかけづくり」ができているのではないかと感じています。
――最後に越境活動を始めてみたいと考えている人たちへのメッセージをお願いいたします。
柏木氏:自分は本当に趣味の延長のような感覚で、私利私欲といっても過言ではないような形で業務と紐づけて越境活動を続けてきました。でも、結果的にその活動は会社にも還元できていて、会社の利益につながり、他のメンバーの刺激にもなっています。趣味を仕事に生かすことができる貴重な機会なので、ぜひいろんな活動にポジティブに携わっていってもらえたらと思います。
Q.越境活動、ひとこと失敗談
Q. 越境活動で出会ったおもしろいこと、もの、ひと
Q. 越境活動の思い出のひとコマ








