生殖医療がいまほど注目を浴びていなかった1977年から男性不妊の研究を開始し、2007年には日本初の男性不妊外来の立ち上げに参加しました。
高校時代は理系科目が得意で、東京工業大学を目指して受験。しかし、1浪しても合格できませんでした。2年目の結果が出たときに、「将来を考えたら医者になるのもいいのでは?」と姉に言われ、軽い気持ちでまだ出願可能だった横浜市立大学の医学部を受験。倍率は35倍で、絶対に受からないだろうと思っていたために、何のプレッシャーもなく受験できたのが良かったのか、なんと合格。ここから、それまでまったく考えたこともなかった医師になる人生が始まりました。
大学を卒業後、そのまま横浜市立大学の泌尿器科学教室に入局し、慢性・急性腎不全の患者の透析、ケア、一滴の尿の排出を夢見て肝移植の研究や腎移植の研究や治療に取り組みました。しかし、職務中のアクシデントから肝炎に感染してしまい、労災に認定され入退院を繰り返すことになりました。このまま腎不全の研究・治療を続けることに限界を感じ、次の赴任地として藤沢市民病院の泌尿器科に移りました。
そこで出会った先輩医師が当時まだ珍しかった男性不妊の原因の1つである「精索(せいさく)静脈瘤」の研究を始め、一番弟子として私もその臨床研究に携わるようになりました。精索静脈瘤は、精巣から心臓に戻る静脈の流れが逆流防止弁の機能不全によって逆流し、静脈血が精巣周辺にとどまることが原因で発症し、陰嚢(いんのう)内の温度の上昇によって精巣の機能障害を引き起こします。精子の数が少ない乏精子(ぼうせいし)症や、精子の運動率低下は、精索静脈瘤によるものが多いことがわかっています。
精索静脈瘤は、外科手術によって血液が逆流しないよう治療することが可能です。私が手術をした患者が自然妊娠できたと報告してくれるたびに、この治療の意義を強く感じ、男性不妊の領域をより深く研究したいと考えるようになりました。
1986年、43歳のときにカナダのケベック州のマックギル大学に留学し、およそ20カ月、精子の運動を高めるための研究に没頭。帰国後は聖マリアンナ医科大学や国際医療福祉大学で研究と治療を続けました。
2007年には国際医療福祉大学病院のリプロダクションセンター内に、日本初となる男性不妊外来の立ち上げに参加。しかし、男性不妊の認知度は高まらず、不妊に困っていてもなかなか病院には来てくれません。そこで、NPO法人男性不妊ドクターズを設立し、啓蒙活動にも力を注ぎました。
80歳を過ぎたいまも、医療法人オーク会の男性不妊外来で治療に携わっています。
私が研究を始めてから50年近くが経ち、その間に生殖医療を取り巻く環境は大きく変化しました。人口減少の影響もあり、少子化はどんどん進んでいます。また、明確な原因はわかっていませんが、日本人だけでなく世界各国において、精液に含まれる精子の数が減少しているという研究結果が出ています。その中で、体外受精や顕微授精といった高度な生殖医療の技術も進歩しました。
高度な医療技術によって誕生した命が多くある一方で、金銭面や妻側の身体的、精神的な負担は大きい。我々泌尿器科医は、できるだけ高度な治療に進む前の段階で妊娠を可能にする努力が重要だと考えています。精索静脈瘤を早期に発見できれば、治療によって自然妊娠が可能になります。
不妊の原因の半数は男性にあります。妊活は夫婦ふたりでまずは検査をして、お互いの体の状況を知ることからスタートしてほしいと思います。病院に行くことに抵抗がある人は、オンライン診療をしている病院も多くありますので、検索してみてください。
男性不妊の研究に人生を懸けて取り組んできましたが、まだ道半ばです。いまは世の中に存在しない、精子の運動率を高める薬を開発することが、私の目標です。
(構成/尾越まり恵)
高校時代は理系科目が得意で、東京工業大学を目指して受験。しかし、1浪しても合格できませんでした。2年目の結果が出たときに、「将来を考えたら医者になるのもいいのでは?」と姉に言われ、軽い気持ちでまだ出願可能だった横浜市立大学の医学部を受験。倍率は35倍で、絶対に受からないだろうと思っていたために、何のプレッシャーもなく受験できたのが良かったのか、なんと合格。ここから、それまでまったく考えたこともなかった医師になる人生が始まりました。
大学を卒業後、そのまま横浜市立大学の泌尿器科学教室に入局し、慢性・急性腎不全の患者の透析、ケア、一滴の尿の排出を夢見て肝移植の研究や腎移植の研究や治療に取り組みました。しかし、職務中のアクシデントから肝炎に感染してしまい、労災に認定され入退院を繰り返すことになりました。このまま腎不全の研究・治療を続けることに限界を感じ、次の赴任地として藤沢市民病院の泌尿器科に移りました。
そこで出会った先輩医師が当時まだ珍しかった男性不妊の原因の1つである「精索(せいさく)静脈瘤」の研究を始め、一番弟子として私もその臨床研究に携わるようになりました。精索静脈瘤は、精巣から心臓に戻る静脈の流れが逆流防止弁の機能不全によって逆流し、静脈血が精巣周辺にとどまることが原因で発症し、陰嚢(いんのう)内の温度の上昇によって精巣の機能障害を引き起こします。精子の数が少ない乏精子(ぼうせいし)症や、精子の運動率低下は、精索静脈瘤によるものが多いことがわかっています。
精索静脈瘤は、外科手術によって血液が逆流しないよう治療することが可能です。私が手術をした患者が自然妊娠できたと報告してくれるたびに、この治療の意義を強く感じ、男性不妊の領域をより深く研究したいと考えるようになりました。
1986年、43歳のときにカナダのケベック州のマックギル大学に留学し、およそ20カ月、精子の運動を高めるための研究に没頭。帰国後は聖マリアンナ医科大学や国際医療福祉大学で研究と治療を続けました。
2007年には国際医療福祉大学病院のリプロダクションセンター内に、日本初となる男性不妊外来の立ち上げに参加。しかし、男性不妊の認知度は高まらず、不妊に困っていてもなかなか病院には来てくれません。そこで、NPO法人男性不妊ドクターズを設立し、啓蒙活動にも力を注ぎました。
80歳を過ぎたいまも、医療法人オーク会の男性不妊外来で治療に携わっています。
私が研究を始めてから50年近くが経ち、その間に生殖医療を取り巻く環境は大きく変化しました。人口減少の影響もあり、少子化はどんどん進んでいます。また、明確な原因はわかっていませんが、日本人だけでなく世界各国において、精液に含まれる精子の数が減少しているという研究結果が出ています。その中で、体外受精や顕微授精といった高度な生殖医療の技術も進歩しました。
高度な医療技術によって誕生した命が多くある一方で、金銭面や妻側の身体的、精神的な負担は大きい。我々泌尿器科医は、できるだけ高度な治療に進む前の段階で妊娠を可能にする努力が重要だと考えています。精索静脈瘤を早期に発見できれば、治療によって自然妊娠が可能になります。
不妊の原因の半数は男性にあります。妊活は夫婦ふたりでまずは検査をして、お互いの体の状況を知ることからスタートしてほしいと思います。病院に行くことに抵抗がある人は、オンライン診療をしている病院も多くありますので、検索してみてください。
男性不妊の研究に人生を懸けて取り組んできましたが、まだ道半ばです。いまは世の中に存在しない、精子の運動率を高める薬を開発することが、私の目標です。
(構成/尾越まり恵)
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