新卒4年目で地域課題解決のためのビジネス創出関連部署へと異動になった峯﨑 華氏。ビジネス創出といっても何から着手すべきかわからず、とりあえず先輩社員とともにさまざまなコミュニティに参加し、地域課題や新規ビジネスのネタ探しを始めてみることにした。次第に「もっと気軽に人と繋がる場所があれば、地域課題を解決していけるのではないか」という思いを抱くように。こうして始めたのが、人と人を繋ぐ場所「コミュニティスナック」の運営だった。

新規事業のネタ探しに
課外活動に参加

――まずは現在の業務内容についてお聞かせください。

峯﨑 華氏(以下、峯﨑氏):2025年7月に鹿児島営業所から東京に異動となり、大阪・東京に本社がある大企業向けにNTT西日本が持つさまざまな商材を販売する法人営業部門に配属となりました。営業とシステムエンジニア(SE)の中間の役割を担う提案型SEとして、さまざまな情報収集や営業サポート、協力ベンダーとのやりとりなどを担当しています。

――越境活動を始めようと思ったきっかけはどこにあったのでしょうか?

峯﨑氏:2018年に入社し、3年ほど法人営業を担当したあと、当時新設されたばかりだった鹿児島ビジネス営業部ビジネス推進部門ビジネス推進担当というチームに配属となりました。ビジネス推進担当チームでは「地域課題を解決するために地域の企業を巻き込みながら新しいビジネス創出にチャレンジしよう!」というミッションを担っており、この立ち上がったばかりの組織で「何か」を生み出さなければいけませんでした。

そうはいってもなかなかアイデアが思いつきません。そんなとき、部署の立ち上げから一緒に働いてきた先輩に「社外に出ていろんな話を聞いたほうがいいかもしれない」とアドバイスをいただきました。そこで、本業のための情報収集として、毎週金曜日に路地に集まって雑談をしたりラジオ体操をしたりする「朝活」に参加したり、コワーキングスペースのコミュニティマネージャーと話をしたりする中で、いろいろな人を紹介してもらうようになりました。

それが思いのほか楽しかったんですよ! 桜島に行って農業をしているおじいさんの手伝いをしたり、鹿児島市のワークショップに参加して参加者の皆さんと「まちを想う行動」を考え、実践したり。社外の面白い人たちと話して自分の知識やノウハウが積み重なっていくことにやりがいを見出すようになりました。

――本業のために始めたそのような活動が、どのように「コミュニティスナック」の取り組みにつながっていったのでしょうか。

峯﨑氏:活動を続けていると、どのコミュニティに参加しても会うメンバーがいつも同じであることに気が付いたんです。この場に集まる人々はすでに「組織から一歩踏み出して情報を得ようとしている人」たちであり、地場の企業の社員や若者たちにはほとんど会いませんでした。20~30代の未来の鹿児島をつくる人たちは仕事も家庭も忙しくてなかなか参加できないのかもしれませんが、もう少し参加のハードルを下げて、そういう人でも参加しやすい場所があればいいなと思いました。

そこで考えたのがお酒です。鹿児島は何といってもお酒好きの文化! お酒が絡めば話も弾むし気安く来られるのではないか。そう考えて「コミュニティスナック」という形を思いつきました。

忙しい人でも気軽に参加できる
人との交流の場を提供する

――具体的な越境活動の内容についてお聞かせください。

峯﨑氏:近くのスタンディングバーや居酒屋などをお借りして、年に2~3回のペースでコミュニティスナックを開催しています。IT企業の休憩所をお借りするところからスタートし、次第にお店のPRがしたいという新規開店のお店などにも広げながらスナックを続けていきました。

フードの種類がたくさんある大衆居酒屋のようなお店の場合、私はコミュニティスナックの発起人でありながら割烹着を来てホールスタッフとして働く新米アルバイトのようになったこともありました。顔写真入りの看板を出してもらったことも(笑)。そうこうしているうちに飲食店街から少し離れた場所にあるこじんまりとしたスタンディングバーのオーナーと仲良くなり、何かに挑戦しているけれどうまくいかず困っている人と一緒にママとして立ってみるのが面白いのではないかという話になりました。

そんな中、鹿児島県の事業で、鹿児島の食材を使ってクラフトコーラのシロップを作っている人と出会う機会がありました。焼酎が好きな人ではじめてプライベートで飲んだときに、「なかなかシロップを飲んでもらえない」と悩んでいることを知り、「それならスナックを活用して、シロップをいろんなお酒で割ってみるとどうなるか、テストマーケティングをしてみたら面白いかもしれない!」と考えました。

コミュニティスナックのママとして一緒にカウンターに立ち、鹿児島の黒糖焼酎とシロップを合わせたドリンクを数種類提供。お客さんにはどれがおいしかったかシールを貼ってもらって検証するというコラボレーション企画を実施したところ大盛況。「自分もコラボしてみたい!」という人たちも現れ、つながりが発展していきました。

――越境活動を進めるうえで最も苦労したのはどのような点でしたか。

峯﨑氏:コミュニティスナックを思いついたはいいものの、とにかくスナックを運営できる場所がないんです。しかも私は学習塾とカラオケ店でしか働いた経験がなく、いわゆるお酒をメインに提供するような飲食店での接客業の経験がありません。でもさまざまなコミュニティに顔を出すたびに「コミュニティスナックをやりたい!」と言い続けていたらある日、別の機会に知り合ったIT企業の社長が「そんなにやりたいなら、うちの休憩所を貸してあげるよ」と言ってくださったんです。翌日すぐに下見に行き、「ここを使わせてください!」とお願いしました。

会社の1階部分にある休憩所は20人ほどが座れるカウンター席とソファ席があり、バーカウンターにはハイボールを作ることのできるサーバーもありました。「場所代もハイボール代もいらないよ」と言う社長の厚意に甘える形で、まずはその場所で第1回目を開催することができました。

社員の方に御礼のお菓子を持参し、おつまみは各自の持ち込み制。具体的なプランは何もありませんでしたが、いつもお世話になっている商店街の方に借りた仮装セットや先輩社員の提案で設置したゲームコーナーのおかげで、にぎやかに交流できる場となりました。ハイボールを飲みわいわい話をしていると県や市の産業課の方々が遊びに来てくれて、「なんでNTT西日本さんが?」と首を傾げられながらもどんどんつながりが生まれていき、次のステップにつなげていくことができました。

峰崎さん中面

コミュニティスナックのママとしてさまざまなお店に立つ峯﨑 華氏。NTTビジネスソリューションズ エンタープライズビジネス営業部 法人営業部門法人営業担当。2018年にNTTビジネスソリューションズに入社。2024年度E-1グランプリにて「コミュニティスナックで私らしいはたらき方」と題して活動内容を発表。優秀賞を受賞した


コミュニティスナックの運営経験を生かし
若手で地域の未来を考える勉強会を開催

――実際に越境活動に挑戦してみてご自身の中で何か変化はありましたか。

峯﨑氏:コミュニティをつくった経験を生かして、NTT西日本として取引のある企業を中心に、地場の企業が参加しやすいような勉強会を月に1回開催するようになりました。「鹿児島みらい共創プロジェクト」と題して「鹿児島の10年後を考える」というテーマでさまざまな企業の若手社員とディスカッションを重ねる企画です。

自治体の部長・局長を招いて官公庁の立場から鹿児島の未来についてお話しいただいたり、WebマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメーション)のスタートアップ企業の方に生成AIの講義をしていただいたり。それぞれの企業が抱える課題は、自社で解決できなくても、地場の企業と組むことで解決の糸口につながることもあります。

例えば地元のテレビ局は経営の転換期を迎えており、テレビの枠を超えてさまざまな新規事業に取り組んでいます。そんなとき、横のつながりを持って取り組みを共有していくことで、他企業や自治体も同じ課題を持っていることが明らかになりました。それぞれの組織の強みとテレビ局の強みをかけ合わせたらどのような新規事業につながるのかなど、共創を考えるきっかけやヒントを見つけることができるんです。

また、越境活動で出会った人たちがお互いに社外の営業担当者のような存在になってくれたことで本業に生かせたケースもあります。例えば、コミュニティスナックに協力していただいた飲食店のオーナー経由でライブコマース(ライブ配信での製品販売)に出演してくれる食品卸の会社とつながることもできました。

もう1つ、熊本のある自治体でNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)を使って小学校6年生にプログラミングの授業をしていると聞いて、鹿児島でも取り組んでみたいと考えました。自治体のトップと交渉して2025年の2学期から導入することができました。面白そうな企画を知ることができたのも、40以上ある自治体の中で興味を持っていただけそうな自治体を紹介してもらえたのも、越境活動で培った人脈のおかげです。私が起点となって取り組むことで、少しでも地元・鹿児島を豊かにすることができたらうれしいなと思います。

このような活動に取り組んだこと、NTT西日本として認めていただけたことは私の中ではとても大きく、自分の経験を棚卸することもできましたし、自信にもつながりました。外部の方に話すと「とてもいい会社だ」と言ってもらえます。いまは新しい部署に転属したばかりでまだ動き出せていませんが、もう少し落ち着いたら、情報収集をしてまたいろいろなことに挑戦してみたいと思っています。

――最後に越境活動を始めてみたいと考えている人たちへのメッセージをお願いいたします。

峯﨑氏:さまざまな活動に興味があるけれど、なかなか社内の理解が得られないということは往々にしてあるだろうと思っています。一歩踏み出せずにいる人は、まずは社外の自由な場でいろいろなことにチャレンジしてみたらいいのではないかと思います。

そのうちのいくつかが花開き、越境活動につながっていくかもしれません。会社に還元することができたら、本業もきっともっと楽しくなるはず。私はE-1グランプリで表彰されるなんて夢にも思っておらず、正直、にぎやかし程度に思っていましたが、優秀賞をいただくことができて本当にうれしく思っています。まずは気負わずに、一歩踏み出してもらえたらと思います。

Q.越境活動、ひとこと失敗談 

A.スナックは運営が難しいんです。料理メニューが多いお店だとメニュー名を覚えられなかったり、お会計でいくらもらったのかわからなくなったり。お店の人とお客さんに助けられながら運営していました。

Q. 越境活動で出会ったおもしろいこと、もの、ひと 

A.自分の会社や組織に所属しながら興味・関心を持って動いている人もいるし、どこにも属していないけれど課題感を持っている人もいる。本当にいろんな人がいます。学生の頃は鹿児島の嫌なところしか見えていなかったけど、いろんな人と出会えたことで、鹿児島のことが好きになりました。

Q. 越境活動の思い出のひとコマ 

A.その昔、いきなり会社に「スナックをやる!」と提案して却下されたことがありました。バーの全国展開をしていた企業と協業できたら楽にできるのではないかと考えていましたが、両者でさまざまな制約があることがわかり、実現できませんでした。すでにできあがっているシステムに乗っかることも1つの手ではありますが、ハンドリングできる範囲で小さく始めたほうがいろいろうまくいくなと感じた出来事でした。

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