山口智佐

デザイナーとしての会社員人生に終止符を打ち、天然染料の染め屋「そめなや」として活動を始めたのは、2019年、私が48歳の時のことです。

子どもの頃から美術が得意で中学生の頃にはデザイナーになると決めていました。高校卒業後はデ ザイン会社でアルバイトをし、その後、博報堂フォトクリエイティブ(現・博報堂プロダクツ)に入社。店頭POPからSP(セールスプロモーション)、WEBなどあらゆるデザインに携わりました。仕事は激務で会社で寝泊まりするような日常の中、求められるものはとにかくスピード、それに時代を 先取りする最先端のビジュアルデザインでした。

40代に入る頃、先輩たちのキャリアが頭打ちになっていく姿を見ていく中で、自分なりの道を探そうと思い始めました。職業柄、着物の色合わせや柄合わせなどにはもともと興味があった私。時間をかけて何かを創りたいと考えたとき、思いつきで京都造形大学(現・京都芸術大学)染織コースに入学しました。

最初は何もわからなかった染織の世界でしたが、だんだんと知識を深めていく中、天然染料との出会いがありました。日本の伝統的な染織技術である天然染料での染色は、たまねぎの皮や使用後の茶葉など、普段は捨てられてしまうような素材を使って染めることもできるうえ、複雑な色調を発する独特な仕上がりも特徴です。ところが扱いの難しさや技術の伝承が途絶えたことから衰退。昭和初期、作家で染織家の山崎斌(あきら)氏がその技術復興に寄与し、「草木染め」と命名したことから1970~80年頃に再びブームとなりました。

在学中にそのことを知り、山崎和樹氏に師事。工房と大学で4年間染織技術について学び、 卒業制作では学科賞を受賞。卒業後は女性起業家育成支援の一環として東京都が実施しているチャレンジショップ「創の実」プロジェクトに参加し、試験店舗の運営後、2022年9月、東京都杉並区荻窪に天然染料の染め屋をオープンしました。

現在はショップ兼工房での展示販売のほか、染織教室の開催、染織の受注生産などを手掛けています。儲からないといわれる染織の世界。草木染めは色が変化しやすく、商品寿命が短いという難しさもあります。でも技術さえ学べば自分でも染めることができるのが草木染めの面白さ。1000年以上もの昔から伝わる日本古来の染織技術を、現代でも活用し継承していきたい。私のもう1つの挑戦は、まだ始まったばかりです。


天然染料の染め屋 そめなや オーナー 公式Instagram somenaya12


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