おおたさんショート

東京外国語大学に通っていた1年生のとき、現役時代に不合格だった上智大学の入試に再挑戦することを決めました。

高校生のとき、「教育には政治よりも世の中を変える力があるのではないか」と考え、教師を志すようになりました。得意だった英語の教師になろうと外国語学部のある大学をいくつか受験。キャンパスの雰囲気に憧れを持っていた上智大学が第一志望でした。

しかし、結果は上智だけが不合格。上智の英語学科の試験内容はユニークで、受験というよりTOEICに近く、対策が足りていませんでした。

東京外大に進学し、アメリカンフットボール部に入部。キャンパスライフは楽しく、そのまま通い続けるつもりでした。でも、1年後に僕は上智大学の入試に再挑戦したのです。

そう決断した理由の1つは、上智のある四ツ谷を電車で通るたびに、悔しさがにじみ出てきたこと。そして、当時東京外大のアメフト部はできたばかりでリーグの4部、上智は1部だったこと。「1部リーグでプレイしてみたいな」と思ったのです。
最後に、当時好きだった女性に一度告白してフラれていて、「もう1回上智にチャレンジする」と言ったらカッコいいんじゃないか。振り向いてもらえるんじゃないか、というよこしまな動機もありました(笑)。

――受かっても受からなくてもいいから、この気持ちに区切りをつけるために受験しよう!

そう決めて、誰にも言わずバイトで貯めたお金で受験料を払い、試験を受けに行きました。

外語大で1年英語を勉強した僕の英語力は飛躍的にアップしており、結果は合格。「受かっても行かなくてもいいかな」と思っていたものの、いざ受かるとやっぱり上智に行きたいという気持ちが強くなっていきます。

しかし――。
「東京外大を辞めて、上智に通いたい」と親に伝えたところ、あえなく却下されてしまいます。東京外大は国立ですし、偏差値だけで比べると上智より高い。学費も安いし、上智に入り直せば、卒業が1年遅れてしまう。親からすると、僕が言っていることは意味不明だったと思います。

でもある日、隣に住むおじさんが一升瓶を持ってうちにやって来て、父と酒を飲みながら「としくんが頑張ったんだから行かせてやれよ」と説得してくれたのです。おじさんのおかげで、僕は上智大学に通えることになりました。

損得勘定で考えると、バカな決断だったと思います。でも、長い歴史を持つカトリックの精神にあふれた上智大学で教育を受けたことが、いまの自分の価値観に大きな影響を与えていると感じています。特に、担任だったドナル・ドイル先生にはとてもかわいがってもらいました。彼は、「愛という言葉を使わずに、愛を教えてくれる人」でした。僕はカトリック信徒ではありませんが、ドイル先生の佇まい、生き方をとても尊敬しています。今年50歳になる僕が、これからどう生き、どう死ぬかを考えるときに、その指針は上智大学で得られたものだと実感しています。

決断の良し悪しは、決断の瞬間に決まるものではなく、その後の自分の生き方や振る舞いによって正解にも不正解にもなるのだと思います。上智に行くという選択によってその先の自分が作られた。いまの僕はそのことに満足しています。

おおたとしまさ X(旧Twitter)

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