玉木仁

35歳のとき、歯科インプラント治療をメインに取り扱うことに決めました。

小・中学校のときに流行っていたテレビドラマ『飛び出せ!青春』や『3年B組金八先生』に憧れ、中学校の先生になろうと考え、新潟大学の教育学部へ。ところが教育実習で不良中学生がタバコを学生服のポケットに隠し持っていることに気づいて注意しようとしたところ、担当教官から「余計な問題を掘り起こさないでくれ」と言われ、失望。2週間程度しかいない教育実習生が不良学生を正すことは求められておらず、素行の悪い生徒の多い中学校では「いかに見て見ぬふりをするか」が求められているのかと落胆した記憶があります。

そこで完全に教師になりたいという夢を諦めた私。双子の弟が医学部の学生で「歯科医師のほうが技術の習得も経済的な自立も早い」と言うので、歯学部受験を決意しました。大学4年を終えて歯学部受験からやり直すのは、文字通り気が狂いそうでした。そう感じながらも猛勉強を始め、26歳のときに母校・新潟大学の歯学部に無事入学することができました。入学後も大変なことがたくさんありましたが、新潟大学は大学卒業後に歯学部に入り直す学生が1割ほどいたこともあり、何とか頑張ることができました。

32歳で卒業後、関東で1年間の勤務医生活を送ったあと、東京・日本橋で開業していた歯科医の娘と結婚。義理の両親はともにがんの闘病中だったこともあり、患者を引き継いで日本橋での歯科診療が始まりました。

患者さんは高齢者が多いこともあり、入れ歯(義歯)の治療がメインです。しかし私は歯学部時代から「入れ歯」は患者さんの痛みも大きく不確実性の高い治療だと考えており、さらには義歯に関する講座との相性も悪く、入れ歯治療には否定的でした。そんな中、さまざまな勉強会などに参加するうちに、当時日本にはまだそれほど浸透していなかった骨結合型タイプのインプラント治療があることを知りました。

この頃の日本におけるインプラント治療は非骨結合型が主流で、「いかがわしい」「科学的な裏付けがない」と否定されていました。一方、骨結合型のインプラント治療は、素材にチタンを使用するためしばらくすると骨と結合します。そのため、天然の歯と同じようにものを噛むことができ、周りの歯を傷つけず、天然の歯とそん色のない審美性を備えた科学的な治療法であることがわかりました。

私はそのすばらしさに心を打たれ、このインプラント治療こそがもっとも確実で、もっとも 患者さんの主訴を解決できる手法であると考え、休みの日には国内外さまざまな勉強会やセミナーに参加して猛勉強を開始。治療法を習得していきました。

そうして35歳のときに、骨結合型のインプラント治療をメインの治療法にする方向に大きく舵を切りました。あれから30年、1万本以上のインプラント治療を実施してきましたが、「自分の歯で噛める」ことは想像以上の効果をもたらします。入れ歯が合わないと痛みがあり機嫌も悪く、食べる喜びがなくなるため心身ともに衰弱していく方も少なくありません。そんな中、インプラント治療を施すことで、脳梗塞で倒れて寝たきりだった患者さんが起き上がったり、気力をなくしていた患者さんが別人のように元気になったりしていきました。

年齢も60~80代まで幅広く治療が可能であり、最高齢で96歳の患者さんにインプラント手術を施したこともあります。その患者さんとはその後もお付き合いが深く、私が書籍の出版記念パーティーを開いた際に76歳の娘さんとともにご招待させていただいたり、100歳のお誕生日には100本のバラをプレゼントしたりしてきました。その方は101歳でお亡くなりになりましたが、ご本人はもとより娘さんも大変喜んでくださり、感謝のお手紙もいただくことができました。

骨結合型のインプラント治療は現在主流の治療法となりました。まだまだインプラント治療については誤解も多く、正しく知られていないことも多いのが現状です。これからも認知度拡大に努めるとともに、患者さんの歯の健康を守り、患者さんの豊かな人生に少しでも貢献していけたらと思っています。


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