門間 一泰

新卒から10年間勤めたリクルートを退社し、家業である門間箪笥(もんまたんす)店に入社。7代目となりました。

門間箪笥店は、1872年創業の老舗箪笥メーカーです。私はそんな宮城県仙台市で市内唯一の箪笥店に生まれ、その跡取り息子として育ちました。敷地の広い自宅の家屋、職人さんが日常的に出入りする一風変わった家庭環境。そんな毎日は、恵まれていると感じこそすれ、嫌な思いをしたことは一度もありません。むしろモノづくりに携わっていることは誇らしく、いずれ家業を継ぐのだろうということにもほとんど抵抗はありませんでした。

早稲田大学卒業後に新卒で入社したリクルートでの仕事は楽しく、気が付けば社会勉強の目安と考えていた5年を大幅に超過。10年の節目の年に、実家に戻って家業を継ぐ準備に入ろうと決意しました。2011年3月のことです。
折り悪く、そのタイミングで東日本大震災が発生。実家の家屋も被害がを受け、前代未聞の津波被害を前に、東日本のみならず日本中が大混乱に陥っていました。そんな緊急事態を受けて一度は関東に留まろうとも考えた私ですが、震災発生の10日後、今度は父親が急逝するという事態に見舞われました。

リクルートに留まるか、実家に戻るか。回答期日は退職制度の関係で、父親の死から3日後に定められていました。

「不安定な状況、不安定な商売だから、会社は継がなくてもいいよ」
そう言ってくれたのは臨時で社長を務め、会社の実務を取り仕切っていた母でした。でも私は幼い頃から見てきた実家の光景、職人さんが生き生きと働く姿が大好きで、そんな原風景を子どもたちに残してあげたかった。

2011年6月、横浜のマンションを引き払って仙台に戻り、専務として門間箪笥店に入社。2018年に代表取締役に就任しました。

事業承継はもちろん簡単ではありません。職人さんの後継者育成や社内での軋轢(あつれき)の解消、縮小を続ける日本市場に対する新たな販路の開拓など、やることは山積です。ですが、箪笥は日本の職人が作った芸術作品。箪笥、仏壇、瀬戸物。日本にはたくさんの職人がいて、お金で買えない価値があります。和食が世界遺産として認められているように、日本人の繊細さ、文化的な背景は必ず海外に通用する。その確信を胸に、現在は海外販路の開拓に注力しています。先人が心を込めて育ててきた手仕事の技術を世界へ、そして未来へ。

私の挑戦は、まだ始まったばかりです。


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