佐野香織

上京して幾度かの転職を経て、それでも実家に帰らなかったこと、そしてその度に諦めずやりたい仕事を選び続けてきたこと。これが私の人生の決断です。

私の就職活動はちょうどリーマン・ショック直後で内定の取りづらい時期でした。大学では企業ブランディングを学んでいた私が本当にやりたかったのは広告に携わる仕事。でも、親の意向もあり、大学卒業後は地元に戻り、県内の銀行へ就職。

親や周りには「いいところに就職できたね」と褒められたけれど、制服を来て窓口業務をこなす仕事のスタイルや保守的な風土はどうしても私には合わなかった。「将来性や安定を考えればここも悪くない」と思う一方で、全身に帯状疱疹が出たことを機に「一度きりの人生。やっぱり広告業界で働きたい」と一念発起。未経験OK、かつ家賃補助もある好条件に惹かれて都内のベンチャー系広告代理店への転職を勝ち取りました。

しかしそこは想像を超えるブラック企業。連日朝までの飲み会、上司の暴言も目立ち、結局半年で退職。その後に勤めた別の企業も雇用条件が折り合わず半年足らずで退職することに。

大学時代の友人たちは、優良企業で長く勤める人ばかりです。「転職が趣味なんだね」と嘲笑の的になることさえありました。

(……実家に帰ろうかな)

オレンジ色に輝く東京タワーを見ながら、「なんで転職したんだっけ? キャリアをゼロにして、何がしたかったんだっけ? こんなはずじゃなかったのに……」と、うまくいかない現状に涙が出ることもありました。周りと比べて、落ち込む日々。でも、今ここで帰るわけにはいかない。最後のプライドで何とか思いとどまり、26歳のときに派遣社員として勤め始めた広告代理店から、ようやくキャリアアップを図ることができました。

現在35歳。何度も挫折して、何度も転職し、何度も自己嫌悪に陥ったけれど、その度に自分がやりたいと思うことを選び続けてきた。それは間違っていなかったと思っています。 諦めて実家に帰らなくて本当によかった!
今やっと、自分に胸を張れるような気がしています。

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