野中美紀

2016年6月、42歳のとき、予防的措置として子宮と卵巣の全摘出を決意しました。

会社の人間ドックで左胸に乳がんの石灰化が見つかったのは2014年秋のこと。経過観察となり、この時点での治療は見送られましたが、ちょうど同じ頃、姉が乳がんを再発し、遺伝性乳がん卵巣がん症候群だったことが判明。私も念のため検査を受けてみると同じ「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」であることがわかりました。それは、遺伝⼦変異により、特定のがん細胞を阻害する免疫細胞が体内で作られない体質のこと。遺伝性で、乳がんや卵巣がんの発症率が高く、進行が早いことで知られています。

1年後に予定していた経過観察の日程を前倒ししてみると、案の定、左胸に乳がんが発覚。ショックで毎日1人泣いてはネットサーフィンをしながら情報をかき集める日々が始まりました。乳房の全摘も抗がん剤治療による抜け毛も、いずれも女性らしさを損なわせるものなのではないかという恐怖でいっぱいだったのです。でもパートナーは「選択は君に任せる」と言ってくれました。

「ただし、『⽣きる』ということからブレない判断をしてね。僕にとっては、君が未来にいることが重要だから」

不安のすべてをぬぐ拭えたわけではありませんでしたが、私はこの言葉に背を押される形で左胸の全摘出手術を決めました。

2016年3月に乳房再建手術を受けた後、8月に健康な右の乳房と卵巣・子宮をすべて摘出したことは、すで既に発病している左胸を切除するときとはまったく異なる強い決意が必要でした。しかし姉とともに遺伝性乳がん卵巣がん症候群の患者会「クラヴィスアルクス」に入って発病率や再発リスク、進行の早さといったさまざまなリスクの大きさを知ることができ、最終的に全摘を決意。その後の治療で感じてきた医療用ウィッグの課題を解決するため、人毛100%の医療用ウィッグを手掛けるSUMIKIL(スミキル)を立ち上げました。

市販されている人毛の医療用ウィッグの相場は10~30万円と高額です。人工毛は見た目もファッション用ウィッグと同様、「装着感」が強く、数カ月で劣化が目立ってしまいます。私は長く卓球用品メーカーに勤務して中国に人脈があったことから、中国工場の担当者に直談判してカラーやヘアスタイルも楽しめる人毛100%の医療用ウィッグを美容師とともに開発。価格も3~4万円に抑え、全国20店舗の提携サロンを持つに至りました。

決断はつらいものでしたが、あのときの決断があったからいま、生きてここにいます。どんな姿や形になっても、いまがあることに感謝しています。何のために決断するのか、その目的のために目線を上げて決断していく大切さ、正しい情報のもとに判断していく重要性をぜひ知っていただけたらと思います。


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