鈴木さんショート

「組積造(そせきぞう)」の倒壊による地震犠牲者をゼロにする。これが、人生を賭けた私の決断です。

2016年に起こったイタリア中部地震。震災直後に視察に訪れた私の目の前には、想像を絶する光景が広がっていました。余震が続く中で、がれきの下には人が埋まっている。我が子を探し歩く母親の姿。足元には赤ちゃんが遊ぶおもちゃが落ちていました。それはつまり、その下で赤ちゃんが亡くなっていることを意味していました。
「余震でまた建物が崩れるかもしれないから、君たちも危ないよ」。そう私に呼びかけたレスキュー隊員は、人命救助のためにがれきの中へと飛び込んでいきました。
「あぁ、これ、自分も全力でやらないと後悔するな」
そのときに、私は覚悟を決めたのでした。

父が静岡県で建築メンテナンスの会社を設立。後を継ぐなら会社を発展させたいと考え、防災の面から建築を考えてきました。そこで、世界人口の60%が暮らし、倒壊によって多くの地震犠牲者を出している、「組積造」(石やレンガを積み上げて造る建造物)の問題に注目。
イタリアから帰国した私は、防災事業に特化するため株式会社Aster(アスター)を設立しました。災害は英語で「Disaster」。「Aster」には「星」という意味があり、否定の「Dis」がついた災害は、星に見放された状態を意味します。我々が作りたいのは、「Dis」がない「Aster」な世界。それが社名に込めた思いです。

調査研究を経て、組積造の課題を解決するため、樹脂と繊維を混ぜ合わせた塗料「Power Coating(パワーコーティング)」の開発に成功しました。開発時の実験では、阪神淡路大震災と同じ強さの揺れにも耐えられることが実証されました。Power Coatingは作業が簡単で誰でも建物に塗ることができます。

まずは、組積造の建物が多く、地震のリスクが高いフィリピンで普及を目指していきます。JICA(国際協力機構)の事業に採択され、2023年1月には、地震が多いフィリピンのマニラにあるルクスヒン国立高校の教室に塗料を塗り、1年間現地の気候下でモニタリングをする実証実験を開始しました。1年後に効果が認められれば、フィリピンの政府施設への活用が可能になります。

あの日誓った「地震犠牲者ゼロ」の目標の実現に向け、着実に歩みを進めています。

株式会社Aster ホームページ

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