私の決断は、犬の皮膚病に特化したクリニックを作ると決めたことです。
幼少期から動物園や水族館が大好き。マンションでペットが飼えなかった時代にはたくさん持っていた動物のぬいぐるみを布団の周りに並べて一緒に寝るほどの動物好きでした。高校生になって引っ越しをするとペットが飼えるようになり、アラスカン・マラミュートというハスキー犬に似た大型犬を飼ってもらいました。この頃「獣医師」という職業があることを知り、勉強を開始。宮崎大学農学部獣医学科に進学し、6年間学んだあと、動物病院に就職しました。
大阪、三重、名古屋の各クリニックで計7年勤務したのち、2009年、30歳のときに独立。銀行から必要な資金を融資してもらうだけでも一苦労で、1人の顧客も逃してはいけないと24時間365日電話を取っては診療を続けていました。創業期を抜けると業績は順調に推移していきましたが、診察を続ける中で、犬の病気の中で最も多いのが皮膚病であること、皮膚病を患った犬は難治で転院を繰り返したりして苦しんでいること、自分が治療・診察するうえで最も情熱を傾けられるのが皮膚病であることなどから、犬の皮膚病に特化したクリニックを運営したいという気持ちが強くなっていきました。自分には専門的に治療できる技術も知識もあるのに、他の病気もケアしながら得意でないジャンルの診療を続けていくことに違和感を覚えたのです。
――それは顧客に対してあるべき姿ではない。何でも診るのはやめよう。
こうして2014年に犬の皮膚病を専門に診るクリニックを立ち上げることを決めたのでした。
顧客を絞ったことで最初の1年は苦労しましたが、その後は「ここに来れば治る」と評判となり、遠方からも診察を希望する患者様が急増。現在は初診1カ月以上待ちの状態が続いています。実は皮膚病は薬を処方すれば治るというものではありません。食事や運動といった日常生活の過ごし方に根本的な原因が潜んでいることがほとんどです。良かれと思って動物病院監修のドッグフードを食べさせても病状が悪化することだってあります。時間が取れるようになった分、1頭1頭にしっかりと向き合ってヒヤリングをし、ご家庭に合った、そして持続可能な解決策を提案し、二人三脚で治療に取り組んでいくことができています。
現在はクリニックの運営とともに「よりそいlLife with」という取り組みにも注力しています。これは動物の飼育環境改善に関する活動で、「アニマルウェルフェア(動物の福祉)」に基づき、動物が本来の能力を発揮できるような環境で飼育することで、異常行動を起こすようなストレスを抱えた動物を減らすとともに、人が動物の生き方から「学び」を得るための取り組みです。
チーターは足の速さが自慢で、それによって餌を捕らえられる。フクロウは体が大きいのに静かに飛行することができるために餌を捕捉(ほそく)できます。カワウソが陸上生物にも関わらず泳いで魚を捕まえることができるのは泳ぐのが速いからです。でも全力で走るチーターや静かに素早く飛行するフクロウ、驚くべきスピードで泳ぐカワウソを実際に見たことのある人はほとんどいません。狭いケージに囲われた動物に餌を与える。小学生の頃の自分は気が付かなかったけれど、いまならあの狭いケージでは異常行動を起こすのが必然であることが容易に理解できます。
今後はより一層皮膚病治療の在り方を追求するとともに、この「よりそいLife with」の活動にも力を入れ、多くの人の協力を得ながら動物と人々の幸せを追求していきたいと考えています。
(構成/岸のぞみ)四季の森どうぶつクリニック ホームぺージ