親の反対を押し切って、夢を追いかけ始めた千安希さん。ここまでは決して平坦な道のりではなかった。
「ぶつかった壁はたくさんあります。最初は勢いで頑張れたけれど、うまくいかない時間が長くなると、モチベーションを維持することが難しくなったこともありました。
専門学校に通っていた時代は、とにかく卒業するまで頑張ろうって思っていました。卒業して事務所に所属してからも、なかなか仕事をもらえなくて。まわりの同期が仕事をもらっていたりすると、すごく落ち込むんですよね。1年ほど前に、声優の仕事は難しいかもしれない、もう事務所を辞めようかなと思っていたときに、シナリオを書いてみないかというお話をいただいたんです。そうやって今までつながっています」
歴女バーテンやプレゼンター、盆女にシナリオライター。興味のあることはとにかくやってみる。そこからまた、新しい世界を広げてきた。
「旅行でも飲食店でも1人でどこにでも行くし、そこで出会った人たちとすぐにつながります。こういう仕事がしたい、こういう人と会いたい、というのはいつも口に出して言うようにしています。そうすると、紹介してくれる人がいるんです」
4年前に稽古を始めた日舞も、その1つ。
「最初は大河ドラマに憧れて、時代劇に出たいなと思ったんです。殺陣を学んでいたんですが、舞台では女性の殺陣の需要はあっても、映画など映像の世界は少ないよとまわりの役者さんたちに言われて。日舞なら着物の所作を覚えられるなと思って始めました。
日本の伝統文化みたいなものを身を持って体験し、学べています。また、いろんな演目を通して見えてくる歴史もあり、日舞もまた、自分を大きく変えてくれたものの1つでした」
踏み出したからこそ夢に近づいた
さまざまな顔を持つ千安希さんだが、最終的な夢は、7年前から変わっていない。
「一番やりたいことは、ナレーターです。歴史番組や旅番組のナレーションがやりたい。仕事を待つだけでなく、YouTubeなどでどんどん発信して、認めてもらえるようになりたいと思っています。歴史好きの方も、そうでない方にもほっこり楽しんでいただけるようなコンテンツを発信できれば、と。歴史というと、少し難しいとか堅苦しいといったイメージがあるかもしれませんが、例えば歴史的な場所を紹介することで、『ちょっとここに行ってみたいな』と思ってもらえるきっかけが作れたら嬉しいです」
7年前、会社員を辞めると決断したことを、今どのように捉えているのだろうか。
「あのときから今までに嫌なこともあったけれど、私の中ではいいことの方が多かったと思うんです。正社員のときとは違って金銭的には安定しないし、今も芸能活動だけで生活できているわけではありません。何の保障もない今の立場にまったく不安がないと言ったら嘘になります。
でも、落ち込んだときにはいつも原点に返るようにしていて、あのとき決断していなかったら、今まわりにいるみんなに会えていない。だから、やっぱり辞めて良かった、と思うんです。
10代の頃から芸能活動をしている人はたくさんいるので、私はスタートが遅い方だと思います。もう少し早く決断しておけば良かったと思うこともありました。でも、そうすると、たぶん歴史バーテンはしていなかっただろうな、と。だから、やっぱり7年前がベストなタイミングだったんだと思います。
ナレーターになるという夢の頂上に向かい、突き進む千安希さんに、こんな質問をぶつけてみた。
「今は、その夢の何合目?」
千安希さんは少し考えて、「3合目かな」と答えた。
まだそんなところにいるのか、と笑う人もいるかもしれない。それでも、あの日、踏み出していなければ登ることのなかった3合目。千安希さんはただ前を向き、夢に向かって自分の人生を進んでいく。
プロフィール
英 千安希(はなぶさ・ちあき)
シナリオライター・歴女プレゼンター・バーテン・盆女
千葉県長柄町生まれ。地元の高校を卒業後、会社員として働く。25歳のときにナレーターを目指し上京。現在は声優事務所に所属し、ボイスドラマのシナリオライター、盆女、歴女プレゼンター、バーテンなど幅広く活動中。