コラム推し燃ゆ

3月、突如として推しが炎上した。
それはもう、激しくメラメラと。騒動は4月に入っても鎮まる気配はなく、むしろ大きくなる一方だ。現在進行中なので、推しの名前や炎上の内容についてはここでは控えたいと思う。察してください。

その推しは韓国のトップ俳優で、炎上する前までは韓国で最もギャラが高い俳優と言われていた。ちょうど1年前に主演を務めたドラマが世界的に大ヒットし、アジアツアーも大盛況。日本では「めざましテレビ」や「徹子の部屋」にも出演した。

そんなノリにノッていた推しがいま、SNSの暴露合戦により袋叩きに遭っている。
わたしがいま打ちのめされているのは、炎上の内容がどうということよりも、ある日突然、推しを推せなくなってしまう、という事実だ。
まさに、一寸先は闇。この世は諸行無常。

推しの私生活など、ぶっちゃけどうでもいいんですよ(法律に触れる犯罪はダメ)。わたしはただ、圧倒的な才能に、打ちのめされたいだけなんです。
この4月に公開予定だった彼の新ドラマは、騒ぎのために無期限延期になってしまった。もしかしたら、この先ずっと彼は俳優として活動できなくなるのではないか、もう二度と新作ドラマを見ることができないかもしれない、と思うと、残念すぎて立ち直れない。

わたしが韓国ドラマを見始めてまだ2年3カ月だけど、その間に何人も、自ら命を絶った韓国の芸能人の訃報を耳にした。その中にはSNSによる誹謗中傷が原因だと言われている人もいる。
OECD加盟国の中で、人口10万人あたりの自殺率1位(OECD統計より)。
これが、世界トップレベルのエンタメ大国が持つ、もう1つの顔だ。一度の失敗が許されず、再起が難しい、そんな厳しい社会の風潮があるような気がする。

窮地に陥っている推しも、そんな悲しい選択をしてしまうのではないかと考えると、気が気じゃない。どうか、悲劇が繰り返されないように、と祈るばかりだ。

早く笑顔が戻りますように

1年前、大ヒットしたドラマを見て彼の演技に震えたわたしは、その才能にほれ込み、一瞬でファンになった。ファンミーティングに行きたくなったけれど、まだ初心者だし、一緒に行く人もいないし……と迷っていたときに、韓流ファンの大先輩から「ハマっているなら、行かれたらいいと思います」と背中を押してもらい、勇気を出してひとりファンミに乗り込んだ。
いまになって、その先輩の言葉の重みを実感する。

ファンミーティングに参加すると、ますます彼のことを好きになった。ハハハッと大きな声で笑うその声を聞くと、わたしも自然と笑顔になった。大きなステージに立ち、1万人超のファンを前にして、彼は何度も感謝の気持ちを口にした。人並み外れた努力をしてきたのだろう。けれど、人気は彼1人の力で手にしたものではない。そのことを、彼はちゃんとわかっていたと思う。

内向的な性格を心配した親が演技の世界を勧めて芸能界入り。その才能はすぐに花開き、出演作は軒並み大ヒットした。本人のコントロールできる域を超えて人気は大きくなり、世界中のファンが彼の動向に注目した。ギャラは膨れ上がり、影響範囲もどんどん大きくなる。それはまるで、爆発寸前の風船を抱えて走るような日々だったのかもしれない。
人気は妬みや嫉妬を生む。誰でも叩けば何かしらのホコリは出るだろう。
膨らみ続けた風船は、ある日、バンっと大きな音を立てて割れてしまった。今回の出来事に、わたしはそんなイメージを持っている。

号泣しながら記者会見をする推しの姿を見ながら、いつか彼がラクになれる日が来ますように、と願った。
推しにはキラキラと輝いていてほしい。憔悴して涙を流す姿なんか見たくないんだよ。
あぁ、ご飯はちゃんと食べられているかな、夜は眠れているかな。
そんな心配をしながら、いやいや待てよ。ゆうて、家族でも友達でもない、異国の他人やん、と自分に突っ込みを入れる。
推し活もラクじゃない。

誰だって刺されたら痛いんです

昨今、SNSに蔓延する人々の悪意に触れるにつけ、恐ろしくなる。いまは過渡期かもしれないが、これは明らかにわたしたちの時代が生み出した負の遺産であり、後の世代には残しちゃいけない、と思う。

しがないいちライターのわたしも、SNSによる誹謗中傷に似たものを受けた経験がある。
朝日新聞社が運営するtelling,というサイトで、自分自身の体験をコラムに書かせてもらっていたのだけど、yahoo!に転載されると、多くの人に読まれるため、いろいろなコメントがつく。

ご丁寧にわたしのXを探し当てて、リプライを飛ばしてきたりするので、「あぁ、yahoo!に転載されたんだな」と気づく。

「尾越まり恵女史は、前職がゼクシィなのが闇深い」とリプライを飛ばされたことがあった。意味不明だし、結婚情報誌に携わっていたわたしがいま独身なのをディスっているのか? だとしたら、ほんとに余計なお世話だわ。

そして、記事には批判的なコメントがたくさん書き込まれた。
2年前の引っ越しのエピソードを書いたときのことだ。わたしはライターとして食べていけない時期が長く、3畳のシェアハウスに住んだこともあり、10年経ってようやく自分の好きな街で、いままでで一番広い8畳1Kの部屋で暮らせるようになったよ、と、人生と住む家の関係について書いたコラムだった。

すると、ヤフコメでは、
「40代で8畳1Kとか、そんな人生嫌すぎる」
「8畳の部屋がつらいという内容かと思ったら、この人喜んでいるのか、草」
「この文章力だから8畳1Kの家にしか住めないんだな」
「このライターの年収は300万円くらいだろ」
などと、書かれて、「えっ」となった。

文章力については「ごめんなさい」なんだけど、皆さん、さぞかし年収が高く、豪邸に住まれているんですね。

会ったこともない、目に見えない「誰か」からの悪意には、それなりの破壊力がある。
こうした根も葉もない誰かのコメントから「〇〇さんの年収は300万円らしいよ」と、まことしやかにデマが独り歩きしていくのだろう。芸能人の皆さんの心労はいかほどか。

わたしは、自分に唯一与えてもらった文章を書く力をギフトだと思い、大事にしながら生きてきたつもりだ。だから、たとえ私生活がめちゃくちゃであっても(わたしにもいろいろあったよ(苦笑))、「書く」ことだけには誠実に向き合っているし、自分で書いた文章には責任を持つと意味で実名を明記した署名記事で勝負している。それが、文章で生きていく道を選んだ者の覚悟だ。

顔を出して活動している人は、みんな覚悟を持って仕事をしているのだと思う。
それを、顔も名前も出さない、安全な場所にいる人たちが、軽い気持ちで誹謗中傷し、傷つけることがまかり通っているのは、やっぱりおかしいと思うのだ。
投稿ボタンを押す前に、ちょっと想像してみてほしいと思う。いま刺そうとしている人も、同じ人間だということ。ちゃんと心があり、刺されたら血が出るのだ、ということを。

話を推し活に戻そう。

日本の芸能界も揺れているけれど、推しというものは、ある日突然、引退したり、犯罪者になったり、炎上して休業したりするものよ。そういえば、SMAPが解散したときもショックだったなぁ……。

この前、友人に推しを聞いたら、いまは、ちいかわのハチワレだと言っていた。
「だって、キャラクターは死なないから」。
悲しいかな、これが推し活のリアル。

かくして、傷心のわたしはいま、決意を新たにしている。
推しは、推せるときに推そう!と。

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