独自開発した技術で新サービスを生み出したい!
社内副業と大学院の三足の草鞋(わらじ)へ
――まずは現在の業務内容についてお聞かせください。
高須賀将秀氏(以下、高須賀氏):2012年に入社し、14年目になります。現在は社内のデータドリブン経営を牽引するデジタル改革推進部に所属し、データ活用基盤の構築や活用のための研究開発、各事業部へのデータ分析支援、デジタル人材育成などを手掛けています。
――越境活動を始めようと思ったきっかけはどこにあったのでしょうか?
高須賀氏):そもそもNTT西日本に入社した動機が、「自分が開発した技術を具体的なサービスに展開することで、人々の生活を豊かにすること」だったんです。
実際には社内のネットワーク構築の仕事に始まり、社内プライベートクラウドの基盤構築・開発やNTTグループ全体で共同利用できるシステムの開発などに携わることができた一方で、世の中のサービスのための技術開発を担当する機会はありませんでした。そのことに入社5~6年目から疑問を感じるようになり、ビジネス開発系の部署への希望も出しましたが異動は叶いませんでした。
そもそも自社開発の技術を世の中のサービスに展開していくことは、NTT西日本のミッションの1つでしかないのです。13年社内にいて、希望する部署にかすりもしませんでした。ということは今後も希望する部署に異動できる確率は少ないでしょう。自分で道を切り拓くしかないと考えたときに、目に留まったのが「社内ダブルワーク制度」でした。
各部署が人材の公募をかけて希望者がエントリーできる制度で、業務時間の20%以内であれば社内副業をすることができます。私は2020年に新設され、新規ビジネスを創出してサービス展開することをミッションとしていたビジネスデザイン部にエントリーしました。実は私は2019年から名古屋大学大学院の博士課程に進学しており、そこで研究した技術をサービス展開したいと考えていたのです。
数理最適化の技術を活用し
人と仕事のマッチングサービスを開発
――具体的な越境活動の内容についてお聞かせください。
高須賀氏:私が大学院で研究していた数理最適化に関する技術は50年ほどの歴史がありますが、代表的なサービスと言えるものはまだありませんでした。数理最適化とは、ある一定のルールの中で目的を達成するために最適な解を導き出すための数学的手法のことで、平たくいうと、「予算1,000円で最も満足度の高い買い物をする場合の購入品選定」や「1時間以内で最も効率的に配送する場合のルート選定」などに応用することができます。
その中で私が注目したのは人と仕事を結びつけるマッチングサービスへの展開です。これまでも同様のマッチングサービスはありましたが、簡単な条件でしかマッチングさせることができなかったため、本当の意味で相互に役立つマッチングにはなっていないという課題がありました。
私が開発した技術であれば、人のパーソナルデータをデジタルデータに置き換え、人と仕事のマッチングにおける評価指標(モデル)を明確にし、短時間で最適解を発見することができます。したがって、タレントマネジメントシステムの活用や人事部との連携によって単純な経歴だけでない個人のスキルや性格、相性、本人の希望、モチベーションの上がる業務、育成の観点での適した職場など、「点」ではなく「面」で人と仕事を結びつけることができるため、生産性の向上や離職率の低下などさまざまな効果が期待できます。
――越境活動を進めるうえで最も苦労したのはどのような点でしたか。
高須賀氏:技術には自信があり、実際に5件の論文優秀賞を受賞、特許も出願しています。しかしサービス展開の方法を考えるためには、技術のすばらしさだけでなく、収益モデルや市場規模を考え、ビジネスモデルを構築し、サービスの使いやすさや儲かる仕組みを見せる必要があります。私はあくまで研究者として活動してきたため、お客様視点やビジネス視点が欠けており、そういった点では苦労しました。
また、本業をこなしながら大学院にも通い、社内ダブルワークにも参加していたので、とにかく時間をいかに捻出するかには苦労しました。土日返上で深夜も作業。週に2~3日は徹夜するような日々でした。これまで「週末にやればいい」「明日やればいい」と思っていたようなことも、この頃は1分1秒を惜しむ生活だったので、「今やらなければ!」という切羽詰まった気持ちで日々を過ごしていました。人生ではじめて時間と体力には限界があると気づいた経験でしたね。

博士課程における研究効率化の事例について講演する高須賀将秀氏。デジタル革新本部 デジタル改革推進部 マネジメント部門 デジタルイノベーション担当。2012年にNTT西日本に入社。2024年度E-1グランプリにて「人と仕事のマッチング多種多様な人材がイキイキ働く働き方"革命"プロジェクト」と題して活動内容を発表。奨励賞を受賞した
やりたいことに所属は関係ない!
学術界と産業界の橋渡し役を担っていきたい
――実際に越境活動に挑戦してみて、どのような成果や成長を感じていますか。
高須賀氏:当初想定していた人と仕事のマッチングはまだ実用化に至っていませんが、建設業界における工事担当者の割り当てマッチングにおいてはグループ会社のNTTインフラネットで導入が始まっています。無数にある工事現場に対して担当の立会者の割当を決定する作業で、立ち合い担当者の移動距離やスキル、これまでの立ち合い実績、手配担当者の思考や嗜好を踏まえた複数の条件からマッチングすることができます。このような専門性の高い領域の展開範囲を拡大し、より価値の高い事業貢献をしていけたらと思っています。
研究開発した技術は第2の生成AIの一端を狙いうるのではないかと思っています。発表当初はあまり話題になりませんでしたが、徐々に日の目を見つつあることから、頑張って良かったなと手ごたえを感じています。その後、博士号の取得とともに3大クラウドと呼ばれるAWS(Amazon Web Services)、マイクロソフト、グーグルクラウドの資格を全て取得(3大クラウド資格全冠)。法政大学の非常勤講師や学習プラットフォーム「Udemy(ユーデミー)」で講師を務めるなど、活動の幅を広げながら越境活動を続けています。
越境活動を通じて、「自身の専門性を活かした事業貢献をするために所属にこだわる必要はないんだな」と考えることができるようになりましたし、どこでも活躍できるんだという気持ちも強くなりました。また、強い信念を持って行動し続けることで周囲の理解や支援を得られるようにもなります。そのようなめぐりあわせによってやりたいことが形になっていくんだという成功体験を得ることができました。
学術界では数理最適化の技術を知っている人材はいますが産業界でサービス展開することを思いつく人材は少ない。一方で、産業界では潜在的なニーズがあるにもかかわらず、活用できる技術があることを知らないという現状も知ることができました。今後は学術界と産業界の橋渡し役を担っていきたいと思います。
――最後に越境活動を始めてみたいと考えている人たちへのメッセージをお願いいたします。
高須賀氏:小さなものでもまずは一歩を踏み出すことが大事だと思っています。いきなり大きな目標を立てないといけないと考える人も多くいますし、実際にかつての自分もそうでした。結果、サービス化したいと思っていても何から手をつけていいかわからなかった。しかし、実際に何か行動してみないことには何をすべきかすら見えてこないと思うのです。途中で方向転換してもいいし、成功しなくてもいい。まずは小さな一歩を踏み出す勇気を持ってほしいなと思います。
私自身、2024年のE-1グランプリでは優秀賞を獲得できなかったことは心残りですし、人と仕事のマッチングサービスの実用化、数理最適化技術を生成AIに代わる次世代の技術にするためのネイティブサービス化(クラウド環境に最適化されたアプリケーションを開発・提供すること)に向けてやるべきことはまだたくさんあります。そのため、これからも挑戦を続けていきたいと思います。
Q.越境活動、ひとこと失敗談
Q. 越境活動で出会ったおもしろいこと、もの、ひと
Q. 越境活動の思い出のひとコマ









