細谷誠

2018年の年明け、家業の丸文(まるぶん)製菓を継ぐことに決めました。

幼少期は、祖父が創業した丸文製菓とともにありました。丸文製菓は、日本の伝統菓子「おこし」の製造販売を手掛ける会社です。おこしとは、加工した穀物類にゴマや豆、ノリなどを入れて水あめで固めた和菓子のこと。3階建ての実家の1階はおこしの製造販売を行なう工場でした。丸文製菓の2代目となる叔父と叔母、祖母と両親の6人暮らし。幼い頃から工場に寄ってはおこしを食べたり、遊びがてら包装を手伝ったり。おこしは僕にとっては最も身近で、最も愛着のあるお菓子でした。

一方、両親は2人とも公務員。家業を継ぐことを意識したことはありませんでした。高校卒業後は法政大学理工学部機械工学科に進学。勉強するうちにエンジニアの仕事はあまり自分には向かないと考え、就職は人材紹介会社に決めました。

ところが入社半年が経過した2017年の年末、祖母が体調を崩して急逝。叔父からは「売上も利益もなく、赤字も垂れ流し。手伝ってくれていた祖母も亡くなったので、これを機に家業は畳もうと思う」と告白されました。幼い頃からおこしを食べて育った自分にとってはあまりにもショックで、「自分が家業を継ぎたい。給料はいらないから1年だけチャレンジさせてほしい!」と頼み込みました。たいした根拠があったわけではありませんが、当時インバウンドは重要なキーワードであり、自分にはこれが大きなチャンスに思えたのです。

早速会社を辞め、日雇いのアルバイトをしながら店の手伝いを始めました。一通りおこしの製造販売について学んだあとは、前職のつてでデザイナーを紹介してもらい、商品のパッケージ開発に着手。おこしのイメージを刷新するため、ブランド名を「OKOSHIYA TOKYO」に変更。また、触感をよりサクサクに食べやすく、甘さを控えた「やさしい味わい」を目指しました。

続いて、多くの人に「おこし」を知ってもらうため催事イベントへの出店を計画。2019年10月、渋谷ストリームに出店すると2日間で目標の10万円を大きく上回る売り上げを達成することができました。コロナ禍では攻めの経営で丸の内ビルディングに出店を決断。2023年4月28日にリニューアルオープンを果たし、徐々にインバウンド関連の客足も戻ってきました。

おこしが好き、なくしたくないという原動力だけで走り続けて今年で5年目を迎えます。現在はより店舗数を増やし、海外への販路拡大も視野に準備を進めています。


OKOSHIYA TOKYO ホームページ


おすすめの記事