田邊さんショート

大学教員として4年ほど働いた私は、2022年に自律神経失調症と診断され、休職することを決めました。病院に行ったこと、そして休職したことは、とても勇気のいる決断でした。

華やかな舞台衣裳に憧れて、服飾を学べる大学に進学。その後、大学院で被服の研究に打ち込みました。博士課程修了後、研究室に残れることになり、30歳の頃から正式に教員として講義を受け持ち、学生たちに教えるようになりました。講義に加えて自分の研究や論文にファッションショーなどイベントの指導と目まぐるしい毎日でした。

充実した生活を送る一方で、土日はぐったりして起き上がれない。食欲にもむらがある。そんな私の姿を見て、「ちょっとしんどさが過ぎるのでは? 肉体的な疲労だけではなさそう」と、病院の受診を勧めてくれたのが、2021年に結婚した夫でした。それまでは一人暮らしだったので、自分の変化に気がつけなかったのです。

とはいえ、なかなか病院に行く決心がつきません。
――病名がついてしまったら、仕事に差し障るのではないだろうか。
人から「心を病んだ人」と思われてしまうのも怖かった。

しかし、勇気を出して、夫が過去にお世話になった病院に足を運びました。
「まずは、あなたの体の不調を和らげましょうね」
先生は、優しくそう言ってくれました。そのとき伝えられた病名は自律神経失調症。

「この病気は性格や人間性に起因するものではなく、疲れたら誰もがなる可能性のあるもの。体の不調はお薬で緩和できるけれど、心の不調はその原因を解決する必要があります」

誠意ある先生の言葉を聞き、ここでようやく「自分の不調と向き合おう」と思うことができました。当時受け持っていた学生を送り出したかったため、3月までの数カ月間は働き、2023年の4月から休職しています。

まわりに迷惑をかけてしまうのではないかと心配でしたが、話をすると上司や同僚の先生は「やっぱりそうだったよね。顔色見ていたらわかるよ」と言って、私の業務を調整してくださいました。

失敗して周囲に迷惑をかけてしまうことに不安を感じること、そのせいで責任を1人で背負いがちな性格が、心の不調につながったのだと気づきました。半年の休職期間中に、この先大学に戻るのか、別の仕事をするのか、ゆっくり考えたいと思っています。

夫の言葉がなければ、私は病院に行かずに無理を重ねていたかもしれません。自分のことは案外自分ではわからないものです。「休まれると困る」「気合いが足りないからだ」などと言う人もいるかもしれません。でも、自分を本当に大切に思ってくれる人はきっと、「休んだほうがいい」と言ってくれる。その声に耳を傾ければ、最適な決断ができるのだと思います。

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