三森一輝

警察官を辞めて、ベトナム人と起業することを決めました。

高校3年生の進路選択時にやりたいことは特になく、「公務員はどうか」と勧められて警察官採用試験を受け、警察学校へ進学しました。卒業後は埼玉県警川口警察署の配属となり、交番勤務がスタート。川口市は外国人が多く、中には、不法滞在の外国人もたくさんいました。多くの外国人を検挙する一方、ベトナム人をはじめとする外国人たちが技能実習生などで来日した後の日本での生活について非常に難しいのだということをリアルな話を通じて知りました。

3年半が経つと、今度は特殊部隊に配属。立てこもり事件などが発生した際に出動する部隊で、自衛隊の中で最も過酷と言われるレンジャー養成訓練にも参加しました。30㎏以上のバッグを背負って真っ暗な山中を歩き続ける訓練は人生でいちばんともいえる過酷な経験でしたが、その分やりがいもあり、仲間との絆も確認することができる貴重な体験となりました。

その後、草加警察署に異動になり、淡々と仕事をこなす日々に違和感を覚えました。さらに、昔からの夢であった社長になりたいという思いが強くなり、このまま警察官として働き続ける安定の道を進むのかそれとも自分の好きなことをしてみる挑戦の道に行くか迷っていました。
この頃、弟・三森大貴(まさき)がすでに福岡ソフトバンクホークスで内野手として活躍しており、そんな弟に負けたくない、いろんなことに挑戦したい、という思いも強まっていた時期でした。少し勉強を始めてみると手ごたえのあったITスキルを生かし、人材不足が騒がれるエンジニア職での転職を決意。当然周囲には大反対されましたが、気持ちは変わらなかった。1年間会社員エンジニアとして勤務したのち、「自分でもできる」と手ごたえを得てフリーランスへ転向。その後、自分でコーディングをするよりも自分よりも得意な人に任せた方が効率が良いと感じ、知り合いにベトナム人エンジニアがいたので一緒に仕事をすることにしました。
これが思いのほかうまくいきました。

そこで2022年10月にLandBridgeを立ち上げ、起業。仕事が増えてきたのでベトナムにも法人を設立して規模を拡大しています。

起業の大きな原動力となったのは、フリーランスになる少し前、前の職場でお世話になったベトナム人たちに会いにベトナムに行ったことでした。それほど親しかったというわけでもない、お互いに語学が堪能なわけでもない中で、それでも「ベトナムに会いに来てくださいよ」「会いに行きますね」と交わした約束が実現した。異国の地を案内してくれるベトナム人の仲間。一人で飛行機に乗ってベトナムから帰る道中、ふつふつと湧き上がる感動がありました。この出会いを大切にしたい。このような方々と一緒に仕事がしたいと思いました。

あの日の感動が彼らとの起業を決定付け、現在では40名もの従業員を抱える会社にまで育てることができました。これから外国人と働く日本人を増やすために、日本企業とベトナム企業をつなぐハブになりたい。社名のLandBridgeにも、国境を越えた懸け橋になりたいという思いを込めました。

奇跡的に公務員試験に受かり、何となく始まった社会人人生。でも警察官時代に外国人を取り締まりながら感じた違和感や会社員時代に得ることのできた国境を越えた仲間など、たくさんの出会いを経て、いまやりたいことがめいっぱいできています。めちゃくちゃ楽しい毎日に辿り着くことができた。あの日、周囲の反対を押し切ってでも自分の直感を信じて良かった。そう心から思っています。


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