藤原美鈴

42歳、異国の地で未婚のまま、子どもを産んだこと。これが人生最大の決断になりました。

もともと日本でデザインの勉強をしていた私は、大学時代のイギリス留学を機に、ヨーロッパで本格的にデザインを学びたいと考えるようになりました。そんな矢先に出会ったアパートの隣人は、イタリア・ボローニャ出身の写真家の女性。彼女とすっかり意気投合したことが1つのきっかけとなって、イタリア行きを決意。ボローニャ国立美術学院へ進学し、卒業後はグラフィックデザイナーになりました。

イタリアでの生活は楽しく陽気。でも全然思い通りにはいきません。職場が倒産の危機に陥っては転職を余儀なくされたり、不動産売買では契約内容に齟齬がありトラブルに発展しては弁護士を雇う羽目になったり……。極めつけは、35歳のときに知り合って7年も付き合った彼との結婚を断念したことでした。

イタリアでは結婚願望を持たない男性も多く、結婚せずに子どもを持つカップルもたくさんいます。彼もそんな考えをもつ1人でした。結婚はしなくても彼との子どもは欲しい。そう考えて半年間、子づくりを続けた結果、2021年の晩秋、彼との間に念願の赤ちゃんを授かりました。

――彼と結婚という形を取らなかったとしても、この子は2人で、そして友人たちとともに育てればいい。

日本でいうとシングルマザー、未婚の母です。でもイタリアでは、婚姻関係がなくとも子どもへの責任は両親が等しく担うという考え方があり、そういう言葉はあまり使いません。彼とは基本週末に一緒に過ごすように心がけ、家族の時間を大切にしています。もちろん彼は養育費も支払ってくれます。

私はこの異国の地で新しい技術を身に付け、永住ビザを手に入れ、新しい命を授かりました。陽気で自由で大らかな気風。「型にとらわれる必要はないのだ」と教えてくれた第2の故郷。イタリアで手に入れたしなやかな強さを糧に、子どもと彼と、そしてたくさんの友達とともとに、これからも楽しく陽気に生きていきたいと考えています。

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