五十部さんショート

北海道で国有林の監督業務に携わっていた27歳のとき、農林水産省の外局である林野庁を退職し、北海道に移住することを決めました。

両親が共働きだったため、家の中で図鑑を見て過ごしていた幼少期。「動物の研究をしたい!」と考え、東京大学農学部に進学。哺乳類の研究を続けるうちに、「野生獣害」に興味を持つようになりました。野生動物が住む山からアプローチしたいと考え、林野庁に入職します。

霞が関で1年間働いた後、北海道帯広市に異動になり、その後、広尾町へ。広尾町の人たちはみんな生まれ育った街を愛し、何とか盛り上げたいと思っている。自分自身がこれまで感じたことのなかった「地元愛」に触れ、強い感銘を受けました。

一方で、この先、結婚・出産を考えると、女性の私が霞が関の出世レースで戦うには限界があるように感じました。大きな組織の中ではなかなか裁量を持たせてもらえないもどかしさもあった。
――林野庁を辞めて、大好きな動物がたくさんいて、強く惹かれる北海道で何か活動をしてみたい。
そう考えるようになりましたが、家族は大反対で、育ててもらった職場にも恩があり、すぐには決断できませんでした。

悩んでいたとき、知床に行き、はじめて鮭の遡上を見ました。おびただしい数の鮭が一斉に川をのぼっていくのを見た瞬間に、「どこで何をしても、きっと大丈夫だ」と自然と気持ちが固まりました。
鮭の遡上には、海で蓄えたパワーを山に運ぶ役割があります。でも、1匹1匹の鮭はそんなことは考えていないはず。私自身も、「目の前のことを1つ1つ一生懸命やっていれば、大きな自然の摂理の中で、誰かの役に立っていけるかもしれない」と思えたのです。

釧路市を拠点にして、2021年6月に「まちまちえんぴつ」を立ち上げました。林業は、生産者の顔が見えづらい職業です。もっと、消費者に生産者のことを知ってもらいたい。その中で、誰もが一度は必ず触れたことがあり、どこかノスタルジーを感じる「えんぴつ」を製品にしていきたいと考えました。
「まちまち」とは、そのえんぴつに使う木が育った「町」がわかること。トドマツやハンノキなど、さまざまな樹を使用するため、形が「まちまち」であることの2つの意味を込めています。いまはインターネットで販売するほか、釧路と十勝の小売店でも取り扱っていただいています。

えんぴつの製品化には、釧路市の多くの方の力を借りました。大好きなこの街で、えんぴつ作りにますます力を入れていきたいです。

まちまちえんぴつ Instagram
まちまちえんぴつ ホームページ

おすすめの記事