NTTフィールドテクノでは、有志の女性社員が女性の目線で1年間の社内環境改善に取り組む「SHINING(シャイニング)活動」を実施している。北山楓氏はSHINING活動7期生のチームリーダーとして女性の生理の課題に注目。社外の企業も巻き込みながら生理に対する理解促進と企業イメージアップに貢献した。

子どもに多くの選択肢を与えられる
カッコいい大人になりたい!

――まずはこれまでのキャリアと現在の業務内容についてお聞かせいただけますか。

北山楓氏(以下、北山氏):私は教師を目指し、大学では幼稚園と小学校の教育免許を取得しました。ただ、自分の人生の軸は何かと考えたときに、「子どもたちにたくさんの選択肢を与えられるような、カッコいい大人になりたい!」と思ったんです。でも、学校で勉強を教えるだけではそんな大人にはなれないな、と。より多くの選択肢を与えられる大人になるために一般企業に就職する道を選びました。

ベンチャー企業を中心に就職活動をしていた中で、たまたまアルバイト先の常連客だったNTTフィールドテクノの社員の方と出会う機会があり、話を聞いているうちに興味を持つようになりました。NTTフィールドテクノは、NTT西日本グループの設備全般を担う会社です。ベンチャー企業も魅力的でしたが、大企業はやはり世の中に与える影響が大きいと考え、自分が描いた目標に近づけるのではないかと思いました。

大学の専攻とはまったく異なるエンジニアとしての採用だったので、最初は業務に慣れるまで時間がかかりましたね。入社して4年目までは現場で技術者として、故障申告があったお客様のご自宅やオフィスを訪問していました。作業着を着てヘルメットを着け、電柱に登って修理をすることに大変だと感じることもありましたが、お客様から「ありがとう」の言葉をいただけるやりがいのある仕事でした。

入社6年目となる2025年7月からは現在のビジネス推進部に異動になり、事業計画を作成する際の元データの収集・分析業務や社内システムの主管業務を担っています。

――越境活動を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

北山氏:入社当時から、20代のうちにNTTフィールドテクノで実現したい目標が3つありました。1つめが、自らがリーダーとなり推進した施策を社長へプレゼンすること。2つめがその施策をNTT西日本グループ全体で展開すること。そして最後に施策が社外からも評価されることです。

この目標を達成するために、入社2年目から社外のビジネス創発のワーキングなどに参加しつつ、社内では上司からいただくチャンスは全部受けていこうと決めていたんです。そんなときに当時の課長から、今回E-1グランプリで発表した、女性による社内の改善活動「SHINING活動」にお声がけいただき、参加することを決めました。

現場で働く女性の生理の悩みに寄り添い
全社員の生理に対する理解を促進

――「SHINING活動」とは、具体的にどんな活動なのでしょうか。

北山氏:当時は NTTフィールドテクノの中でも女性割合が1割前後の部署で働く社員が参加し、1年間女性の目線を通して、男女の垣根なく働きやすい環境づくり に取り組むプロジェクトです。

NTTフィールドテクノは全体的に女性の割合が少ないのですが、私が担当していた現場はさらに少数派でした」作業で使う工具が男性向けに作られていたり、防犯面で制約があったり、現場の女性は男性と同じように仕事ができないと感じる場面がありました。

しかし、弱点に見えることでも見方を変えれば強みになります。少数派な女性社員だからこそできることや生み出せる価値は何だろうと考えていた私にとって、SHINING活動は大きなチャンスでした。SHINING活動7期生として活動した3チームのうち、1チームのリーダーとして2022年10月からの1年間、活動しました。

――どんな課題を見つけて、改善活動に取り組んだのですか?

北山氏:私たちのチームが注目したのは生理の課題です。テーマについて話し合う中で、メンバー全員が悩んだ実体験があること、また社会的にも課題として認知されていることが決め手でした。例えば、現場では男性社員と2人で社用車に乗って仕事をする機会が多いのですが、急に生理になっても生理用品を買いたいと言いづらかったり、女性用のトイレがないことも多く、トイレに行くことを我慢したりすることもありました。そこで
性別関係なく生理に対する理解を深めながら、NTTフィールドテクノが生理にやさしい会社であることを社内外にアピールすることで安心して働ける環境をつくっていきたいと考えました。

まずは実態把握のために、全社員を対象に生理の基礎知識のテストを実施したところ、男性社員は生理周期やPMS(月経前症候群)などについて、知らない人がいまだに多いことがわかりました。そこで、男性幹部が生理について発信すれば皆さんにより興味を持っていただけるのでは、と考え生理痛疑似体験を実施しました。電極パッドをお腹に貼って生理の痛みを疑似体験できるシステムを装着してもらったところ、「たまらない痛さだ。デスクワークもつらいのに電柱に登るなんて大変だろう」といった感想をいただきました。男性幹部や管理者の皆さんの体験談を社員全員が見られるサイトで発信したところ反響いただきました。

さらに現場の女性が生理のときでも安心して働ける環境を推進しながら社外PRにもつなげたいと考え、ロリエブランドで生理用品を作っている花王さんとの連携を思いつきました。特に知り合いがいたわけではありませんが、ホームページにあった問い合わせの電話番号から正面突破。花王さんが推進しているナプキン備品化プロジェクト「職場のロリエ」のトライアルを経て正式導入し、西日本全域の女性社員が働く現場へ生理用品を配置しました。「職場のロリエ」のサイトにNTTフィールドテクノの社名も入れていただき、いくつかのメディアで今回の取り組みを取材していただくこともできました。

北山さん中面1

職場のトイレに生理用品を設置。生理用品を開発・販売する花王の「職場のロリエ」プロジェクトとも連携した


――活動する上で大変だったのはどんなことですか?

北山氏:どうしてもSHINING活動は女性の活動だという印象が強いようで、どうしたら男性社員も巻き込めるのかは悩みました。女性が働きやすい職場は男性にとっても働きやすい職場であるというメッセージを意識して伝えるようにしました。

また、意外と生理に厳しいのは女性でもあり、現場に生理用品を配置する取り組みについて、デスクワークの女性からは「そこにお金をかける必要はないのではないか」「甘えではないのか」という声が上がることもありました。「過去にも、苦しくても声を上げることができなかった女性が多くいたと思うし、生理は一例でしかないので、現場の女性が働きやすい職場づくりは会社のために必要だと思う」と丁寧に伝え、理解を求めていきました。

活動を通して部署を超えた連携が強化
SHINING活動の認知向上にも貢献

――1年間のSHINING活動を通して、どんな成果を感じていますか。本業に生きている部分はありますか。

北山氏:今回のテーマを取り組むにあたり生理に関する書籍をいくつか読んだのですが、そこで新たに得られた気づきもありました。会議中に倒れてしまうほどの痛みを抱えながらも「我慢すれば大丈夫」と働く女性の存在や、強い痛みの裏に実は病気が隠れている可能性があるなど、改めて生理というテーマに重みを感じました。

SHINING活動の取り組みについてNTT西日本の社長やNTTフィールドテクノの役員が集まる場で成果を発表して功績を認めていただき、NTTフィールドテクノ社長表彰をいただきました。SHINING活動でフィールドテクノ社長表彰を受けたのは私たちのチームがはじめてでした。また、今回E=1グランプリでも奨励賞をいただき、SHINING活動の社内の認知度アップにも貢献できたのではないかと思います。

現場の女性からはトイレに生理用品を置いてもらって、精神的にも安心できてすごく助かっているという声も届いています。花王さんと連携できたこともいい経験になりました。今回は社内活動でしたが、今後はもっと社外に出て、自分の興味のある活動にどんどん挑戦してみたいと思います。

北山さん中面2

歴代のSHINING活動参加者が集まった集合写真。写真前列右から4番目が北山楓氏。2020年NTTフィールドテクノに入社


本業への還元という意味では、部署を超えた活動で社内の人脈が広がりました。それが仕事をする際の思考にも影響を与えていると感じます。仕事で課題に直面したときに「この部署に聞いてみよう」「あの部署と一緒に進めたらいいかもしれない」と考えられるようになったんです。広い視野で協力し合いながら業務を遂行していくことが、仕事の成果にも結び付くのではないかと思っています。社内ではじめてリーダーを経験したので悩むこともありましたが、SHINING活動は私にとってはとても有意義な活動になりました。

――最後に越境活動を始めてみたいと考えている人たちへのメッセージをお願いいたします。

北山氏:私自身、SHINING活動を通して、社長に自分が考えた企画をプレゼンするという目標を叶えることができました。子どもたちにたくさんの選択肢を与えられるカッコいい大人になる、という目標に一歩近づけたかなと感じています。越境活動は、自分のなりたい姿を体現できる手段の1つだと思います。本業だけではどうしても叶えられない自分の欲求を満たすことができ、自己実現できる最速の道だと思うので、ぜひ挑戦してみてください。

Q.越境活動、ひとこと失敗談 

A.失敗というか……、生理の疑似体験で皆さんが痛がっている中で、当時の社長だけは「え、平気なんだけど」と涼しい顔でキョトンとしてました。まさかの、生理痛に対する耐性が強すぎて私たちも唖然としました(笑)。この経験から同じ生理痛でも痛みの感じ方には個人差があり、同性であってもつらさを理解されづらいのだ、という基本的なことを改めて気づかされました。

Q. 越境活動で出会ったおもしろいこと、もの、ひと 

A.NTT西日本が運営するダイバーシティインクルージョンのYouTubeチャンネルに出演したときに、NTT西日本に所属している東京パラリンピックの陸上銅メダリストの堀越信司(ただし)選手と一緒に動画撮影をさせていただけて、感動! 普段はなかなか出会えない人とご一緒することができて「越境活動をして良かったー!」と思いました。

Q. 越境活動の思い出のひとコマ 

A.最初、コンビニとコラボレーションしてお弁当の商品開発をするアイデアが出て、みんなで盛り上がったのですが、「あれ? 女性の課題解決に直結しなくない?」と冷静になり、考え直しました。

おすすめの記事