みぽショート

大学を卒業し、会社員になったものの、ハッキリとした夢も希望も持てず、どこにも居場所がないような、漠然とした孤独と闘う毎日を過ごしていました。仕事のストレスがピークになったとき、すべてを捨てて、演劇や表現の道に進もうと決断。とはいえ、現実は甘くない。何もわからず、札幌の声優学校に入り、2年が経過……。そのとき、たまたま受けた東京の養成所のオーディションに、まさかの特待生で合格しました。評価してもらえたことが、すごくうれしかった。でも――。

「これまで実家を出たことがない」「東京に行くなど考えたことがない」「あそこはスラム街だ」「怖い」

視野がアリンコのように狭かった私に、無常にも一日で決断を迫ってくる養成所。寝耳に水の出来事の中、私は勢いで上京を選んでしまったのです。親に伝えた直後、自分の部屋にこもり、寂しさで枕をびしょびしょに濡らすという矛盾を抱えて……。

結果的に、東京に出てきた私は、酸いも甘いも知り、自分の価値観を理解でき、多くの大切な出会いにも恵まれました。演劇や表現への多岐に渡る挑戦もできた。札幌で鬱々としていた自分に言ってやりたい。「あなた、東京に出てきてほんと良かったよ」と。

(写真/保坂萌)

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