柏木瑞貴

神戸市で育った私は、結婚を機に山梨県都留(つる)市へと移住しました。スターバックスまで車で1時間、ユニクロもZARAもない。そのかわり猿と鹿と熊の住む、ちょっとした田舎町へと引っ越すことにした私。そんな私の、ちょっと笑える結婚話を聞いてください。

「歯ブラシを持ってくるの忘れたから、一緒に買いに行こうよ」
「え、1人で行って来れば?」

徒歩圏内にあるはずのコンビニには行かないらしく、謎に促されるまま自家用車へ。おまけに連れて行かれたのはコンビニでもスーパーでもない、見慣れた地元の海岸でした。

(…………なんで海?)

腕時計は23時をとっくに回った深夜の浜辺。眠い。それに春夜の潮風はまだ寒い。いや、待て。歯ブラシはどうした?

彼は上着の代わりに1本のプリザーブドフラワーを差し出しました。
花びらに刻まれたのは、「Will you marry me?」の文字。

私はきょとんとした。
彼もきょとんとした。

「これ、なんて読むの?」と素で返した私。中学あたりで習った記憶のある「marry」の意味をすっかり忘れていたので、今度は彼が笑う番。
「結婚しようって意味だよ!(笑)」
「え、いいの?!」と、意味を理解した瞬間、一気に眠気が吹っ飛びました。

どこまでも噛み合わないコントのようなプロポーズ。でも、「箱入り」と言われた私が、生まれた街を出る決意をするには充分な、笑いと愛しさの詰まった大切な思い出です。今は千葉に転居した私たちですが、山梨での七転八倒の日々もまた、彼や子どもと過ごせたからこそ楽しむことができました。
ただいま、第2子妊娠中。また新たな生活が始まろうとしています。

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