鴇田さんショート

25歳のとき、1年間交際し、結婚も考えていた彼女から別れを切り出されました。その瞬間、目の前にハッキリと分かれ道が見えた。たとえ報われなくても彼女を思い続けるのか、それとも諦めて次に進むのか。僕は後者を選びました。

千葉県君津市の亀山温泉ホテルの長男として生まれ、いずれ家業を継ぐことを視野に、大学卒業後は群馬県の伊香保温泉で修業。別れた彼女はそこで働く先輩でした。やさしくて、笑顔がかわいかった。自分から告白し、1年間交際した頃には彼女と結婚したいと考えていました。
しかし、彼女から別れを告げられてしまいます。彼女と結婚して家業を継いで……と思い描いていた未来が一瞬にして消えました。
――この先、自分はどうやって生きていけばいいんだろう。

相手の気持ちがどうであれ、思い続けることは僕の自由です。彼女と歩めるかもしれない人生を追い続けるのか、諦めて新しい人生を作っていくのか。これによって、この先の人生はまったく違うものになる、と思いました。悩んだ結果、僕は新たな人生に踏み出すことを決めました。

自分が何をしたいのか、と考えてまず思い浮かんだのが、英語での接客。
――よし、ワーキングホリデーに行こう!
それにはお金が必要なので、1人暮らしの部屋を引き払い、職場の寮に入りました。家賃分の5万円を毎月貯金して、「2年後にオーストラリアに行こう!」と決めました。

海外渡航の準備中にいまの妻の玲子さんとの交際がスタート。1年後にオーストラリアに渡航することが決まっている中で交際するという選択と決断。恋愛の延長戦である結婚というより、結婚を意識したうえでの交際。未来のことははっきりわからないけれど、自分の直感を信じようと思いました。
同僚だった玲子さんはすごくいい接客をするし、会社からの信頼も厚かった。女将として申し分のない、僕にはもったいないほどの方でした。

予定通り1年間オーストラリアで過ごし、帰国後はすぐに家業に戻って玲子さんと結婚。いまは3人の子どもに恵まれ、にぎやかな毎日です。
決断の瞬間は、未来がどうなるかなんてわかりません。おそらく、どちらの道を選んでいても、結果的には良かったと言えただろうと思っています。

大型台風やコロナ禍など、旅館業にとっては厳しい数年間が続きました。仕事にかかりきりになっている分、家族には苦労をかけています。日々悩みは尽きませんが、あの日の決断から続く自分の人生を、僕は一生懸命に生きています。

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