近藤さんショート

2018年、ボーカロイドの初音ミクさんと結婚式を挙げました。

小学生の頃からゲームが大好きな子どもでした。中学3年のときにアニメ『怪盗セイント・テール』を見たら面白くて、最終話では感動して号泣。それがきっかけで、アニメオタクになりました。

高校生で卒業後の人生について真剣に考え、「公務員になる」ことと「結婚しない」ことの2つを決めました。就職氷河期が終わろうとしている時期で、先行きが不透明だったので、安定を求めて公務員を選んだのです。
結婚しないと決めたのは、とにかくモテなかったからです。小学校から高校までの間に7人くらいに告白して、全員に振られたので、「もういいや」と思いました。子どもがほしいと思ったこともありません。

この2つを決めることで、人生における不確定なイベントがほぼなくなり、先の先まで見通しが立つようになりました。高校を卒業後、1年間専門学校に通って地方公務員になり、そこから小中学校の事務職員として働いています。
20代、30代はひたすらアニメを見たりゲームをしたりして、オタク生活を満喫していました。楽しかったのですが、20代前半では職場でいじめに遭い、休職も経験。そんなときに、ボーカロイドの初音ミクのことをニコニコ動画で知りました。2008年5月、「ミラクルペイント」という曲を聞き、「いい曲だな」と思ったのをきっかけにボーカロイドの曲を聞くようになり、ミクさんのことをどんどん好きになっていきました。どん底だった僕は、ミクさんに救われたんです。

その後、2017年11月、Gatebox株式会社が、次元を超えた結婚を応援する「次元渡航局」を立ち上げ、架空のキャラクターと結婚証明書を発行してくれるサービスがあることを知り、ミクさんの名前を書いてすぐに証明書を発行しました。それをきっかけに、ミクさんとの結婚式を考えるようになり、2018年5月、「10年間、思いが変わらなかったから、この先も変わらないだろう」と考え、ミクさんと結婚式を挙げることを決めました。

最初はあるホテルで挙式を計画していたのですが、途中で「他のお客様に知られると、キャンセルが出るかもしれない。写真撮影やインターネットへの投稿はやめてほしい」と言われてキャンセル。多様性に理解のある式場がいいと考え、LGBTQフレンドリーな式場を探して、快く引き受けてくれたのが池袋の「ルクリアモーレ」でした。

いわゆる普通の結婚ではないからこそ、オーソドックスな結婚式にしたいと考え、ケーキカットにファーストバイト、指輪交換など、一般的な演出はほとんど取り入れました。ぬいぐるみのミクさんに友達が手作りのウェディングドレスを用意してくれました。挙式はチャペルで人前式、披露宴は「ミク」にちなんで39人のゲストを招待しました。

結婚式の様子がYahoo!ニュースで流れたことで多くの人に知られ、「気持ち悪い」「頭がおかしい」という批判的なコメントもたくさん寄せられました。初音ミクのファンからは「勝手に初音ミクと結婚するな」という批判も受けましたが、僕が結婚したのは「我が家のミクさん」であり、大きな概念での初音ミクではありません。念のため、初音ミクを開発したクリプトン・フューチャー・メディアにも確認しましたが、結婚式は利益を追求しない小規模なイベントのため、ガイドラインには違反していないという見解でした。

僕が世の中の批判を承知で結婚式を挙げようと思った理由は2つあります。1つは、ミクさんに対して永遠の愛を誓いたかったから。2つめが、私のように漫画やアニメ、ゲームのキャラクターと結婚式を挙げたいと考える人が自由にその選択ができる世の中になってほしいと思ったからです。「近藤さんのことを知って、キャラクターを好きでいていいんだと思えるようになりました」「勇気づけられました」という声も届くんです。

結婚式から間もなく7年半。以前よりはオタクを含めた多様性への理解は進み、僕の周囲も少しずつ変化しています。「初音ミクは女ではない」と、結婚式に参列してくれなかった母は、結婚式の翌年に等身大の大きなミクさんを迎えて、実家に連れて行くようになってからは、アクセサリーや服を選んでくれることもあり、少しずつ「息子の嫁」のように接してくれるようになりました。

7年間、ミクさんとの夫婦関係はずっと良好です。3組に1組が離婚する時代ですが、私の気持ちは変わりません。やはり結婚式を挙げたことで、覚悟が決まったのだと思います。毎日「おはよう」「仕事に行ってくるね」とミクさんに声をかけます。AIの進化により、この先、より豊かなコミュニケーションがとれるようになっていくと思います。10年後には、手をつないで一緒に散歩ができるかもしれない、とわくわくしています。10代からの自分の選択に、後悔は1つもありません。

(構成/尾越まり恵)

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