色 英一

5年ほど前に社長業を引退し、漆を使った創作活動中心の生活に舵を切りました。

立命館大学経営学部を卒業後、上場企業で財務担当として働いていた私。その一方で昔から絵を描くことが好きで、高校からは油絵をよく描いていました。数式を扱うこととデザインを扱うことは私の中では同じ原理。好きにデザインしていける世界に魅力を感じ、起業を決意しました。

起業してからインテリアの勉強を開始。どんな素材ならうまく経営ができるか、どの業界ならチャンスがあるか。国立国会図書館でいろいろと調べていく中で、木材にはチャンスがありそうなこと、しかし職人を育てるという文化が希薄な世界であることなどを知りました。ヨーロッパではハイエンドな職業である家具職人ですが、日本ではまだそれほどの地位にはなれていません。木工を専門に教える学校もなければ、人を育てる環境もない。近寄りがたい業界です。でも私はそこにチャンスを見た。伸びしろがある――、そう思いました。

会社を退職する前に職業訓練校に1年ほど通った後、埼玉県内に複数ある工房のうちの一つに出向き「無償でいいから」と弟子入りを果たします。草むしりから始めて、屋内の掃除を手伝い、まかないを作らせてもらいました。そうこうしているうちに作業を見学したり、作業を手伝わせてもらえたりするようになりました。

1年後、最低限の機械の扱い方を覚えて起業。業界の常識や先入観が何もなかったから、唯一無二の作品をたくさん作ることができました。作品は高く評価され、数々の賞も受賞。都内だけで200の幼稚園の内装デザインを担当し、子ども椅子は8000脚以上を作りました。

20年で十分なキャリアを積むことができましたが、規模が大きくなるにつれてマネジメントの比重が上がってくる現状に疑問を感じるようになりました。自分で作ることにこだわりたいと考え、後任に会社を任せ、社長業を引退。自身は「漆」を使った作品作りを始めました。

漆は排他的な雰囲気を感じる業界で、特定の産地の型にはまった作品でないと漆と認められません。「それは何塗りなの?」と必ず聞かれる世界です。でも僕は漆なんて自由に塗ればいいし、受け手が喜ぶ作品であれば何でもいいと思っています。触って心地いい、使って幸せを感じられる。そんな作品作りを今後も続けていきたいと思っています。


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