関尚子さんショート

30代後半のとき、新卒から14年間勤めた横浜銀行を介護離職、その後、夫と2人で中小企業の事業承継を支援する事業を始めました。

60代前半だった母が若年性認知症と診断されたのが、8年前。それは突然の出来事でした。徐々に病状が進行していく母を介護しながら3人の子どもを育てていたところに、今度は父ががんになりました。
子どもが熱を出した、母親が財布をなくしたと騒ぐ、父が救急車で運ばれる……。子ども3人と両親と、不確定要素を5つ抱える状態。働きながらこの生活を数年続けた結果、思いました。
これはもう、組織で働くのは難しいな……。
しかし、3人の子どもを育てるためには、自分も働く必要があります。

それなら、自分で仕事をつくるしかない。
大きな志があったというよりは、やむにやまれず起業した、というのが正直なところです。銀行員として中小企業の事業承継に課題を感じていた夫とともに起業準備を進め、2020年12月にKamakura Kazoku(かまくらかぞく)を設立しました。

家族経営の多い中小企業を対話で支援する事業を立ち上げた背景には、私自身の原体験も大きく影響しています。大学時代、父の創業した会社が倒産し、父が1週間ほど家に帰って来ないことがありました。ようやくつながった電話で、父はこう言いました。
「生命保険がおりるので、自分の命をもって償おうと思っている」
「何言ってるの!」と諭して何とか家に帰って来てもらったものの、それから父はふさぎ込んでしまった。その背中が、とても小さく見えました。
そのとき、まだ若かった私は、父に「何でもいいから働きなよ」と心ない言葉をかけてしまった。世の中の役に立ちたいと大きな理想を掲げ、立ち上げた会社がうまくいかなかったのです。そんな父に、もっと他にかける言葉があったのではないか……。大人になった私の心の中には、ずっと後悔が残っていました。起業したいまなら、父の無念さが本当によく分かります。

経営者と、後継者であるお子さんとの1on1、あるいはそのパートナーも含めた2on2ミーティングを通して、さまざまな経営者の家族と出会います。父と同じ年代の経営者と話すことで、あのとき父に言えなかった言葉を代弁しているような気持ちになることもあります。
私たち夫婦が対話の場に加わることで、親子や家族のすれ違いを取り除きたい。少しでも、孤独な経営者の力になりたい。私にとって、一生かけて取り組んでいく天職に出会えたと思っています。

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