高校時代に舞台演劇と出会った私は、次第に自ら主催者側に回って演出から脚本、舞台美術、衣装まで考えるようになりました。そんな中で発表した脚本『THE 真っ赤な真っ赤な物語』が杉並区の演劇脚本賞を受賞。ところが杉並演劇祭での公演が決定して喜んだのも束の間、東日本大震災が私たちを襲いました。当日の公演は中止。時間をずらして何とか開催した翌日の公演も、完売していた250席の客席はガラガラで、20人ほどのお客さんがまばらに座っているのみでした。2年以上前から入念に準備を整えても、一度中止になった公演の再公演は難しい。そんな舞台演劇の厳しい現実を知りました。
――中止になっても、身一つでできるショーがしたい!
東京芸術劇場主催のワークショップで大道芸を学び、空中芸の中でも比較的自分の身体能力に合っていた ポールダンスに注目。2013年より本格的に活動を開始しました。主な活動拠点として選んだのは、地元・江東区。亀戸周辺は神社仏閣が多く、和を感じさせる街です。神社の境内で揺れる藤の花、はらはらと舞う落ち葉のきらめき。私は、そんな「和」の繊細で芸術的な世界観を生かしたショーがしたいと考え、和風ポールダンスにたどり着きました。日本が誇る伝統に、新しいものが少しずつ加わってでき上がる喜びがそこにはある。
2014年に亀戸大道芸を発足、2016年には亀戸初の大道芸フェスティバルも主催しました。初期はノーギャラで始まった活動も、今やプロとして地元を中心に国内外で活動することができています。 2022年、その集大成として一般社団法人江東すみだ大道芸協会を設立。12月30日には、設立を記念した「KAMEIDO 大道芸 THEATRE」を開催し、延べ 100 人を動員するに至りました。
世界観が認められたかと思えば震災で舞台が中止になり、大道芸が軌道に乗ったかと思えばコロナ禍で軒並み興行が中止になる。そんないばらの道でした。
ずいぶん遠回りをしたけれど、だから得られた強さもある。生まれ育った亀戸の街、体感してきた「和」の世界、劇団主宰で培った苦難との向き合い方。いまそのすべてがつながって、新たな舞台の幕が上がる。亀戸から始まった私の大道芸事業は、今後、江東区や墨田区と共創しながらさらに地域に貢献していきます。
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