なっちゅショート

「エピテーゼ」をご存じでしょうか。シリコンで作る、人工乳房や指、耳などの人工造形物です。2019年、私はそんなエピテーゼの世界に足を踏み入れました。

子どもの頃から、絵を描いたりデザインをしたりするのが好き。デザイナーさんと一緒にものづくりができる会社として、大学卒業後は印刷会社に就職しました。ところが、残業の多さや上司のハラスメントなど、劣悪な職場環境にさらされ、25歳のときにパニック発作を起こしてしまいます。
息が苦しい! 私はこのまま死んでしまうかもしれない……。

人生の終わりを意識したそのときから、「自分が本当にやりたいことは何だろう?」と考えるようになりました。そんなとき、たまたま見ていたテレビ番組で、事故で顔の片側を失った海外の女の子がエピテーゼを装着しているのを見たのですが、何だか不自然だった。
「私ならもっといいものを作れるんじゃないか」と思い、すぐにインターネットで調べました。日本ではまだわずかしかない情報をもとに、東京でエピテーゼを教えているスクールにたどり着きました。

週に1回、スクールに通い始め、最初は手の指から挑戦。色付けのとき、肌色に緑や青を少し足すと、人間味が出るんです。そんな奥深い世界に、どんどん引き込まれていきました。乳房、耳、顔まで作れるようになるのに2年ほどかかりました。基本的な技術を習得できたいまは、講師のアシスタントをしています。

エピテーゼは、着脱可能な人工造形物です。がんや事故、先天性の病気などで切除せざるを得なかった体の部位の代替品となるもの。日本での主な選択肢は再建手術ですが、その場合は体にメスを入れる必要があります。手術より安価で体への負担が軽いのがエピテーゼの魅力です。

エピテーゼの乳房をつけることで、温泉に入れた、プールに行けたと言ってくださる人がいます。直接希望を聞き、お作りしたものを喜んでもらえることにやりがいを感じる毎日です。
また、外見にコンプレックスを持ち、整形したもののうまくいかなかった方から、エピテーゼに助けを求められることもあります。私自身、自分の外見にコンプレックスを持ち続けてきました。今後は、容姿に悩む人たちに寄り添っていきたい。自分の容姿との付き合い方については、私にとってまだ解決できていない問題です。ずっと考えていきたいし、悩んでいる方たちと一緒に答えを見つけていけたらいいなと思っています。

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