坂井さんショート

2022年4月、所属していたサッカーチームとの契約が満了。セカンドキャリアとして、タイに移住してドリアンの栽培に挑戦することを決めました。

6歳上の兄の影響で物心ついたときからサッカーボールで遊んでいて、その頃からずっと、サッカー選手になる夢を追いかけてきました。本格的にサッカーをやろうと小学4年生のときに地元のチームからアビスパ福岡U-12(12歳以下)チームに移り、U-15まで進んだものの、U-18への昇格は叶わず。悔しさを胸に、サッカーの強豪校、東福岡高校にスポーツ推薦で入学、3年生のときは主将を務めました。
しかし、目標のJリーグ入りは叶いませんでした。

体育教師になる選択肢も視野に、鹿児島県の鹿屋体育大学に進学。半ば諦めかけていたプロ入りでしたが、鹿児島にキャンプに訪れるJリーグチームと練習試合をしているうちに、戦い方によっては実力が上のチームにも勝てることを体験し、サッカーの奥深さを知るとともに、自信を取り戻していきました。
大学4年生のときには特別強化指定選手としてJリーグの試合にも出場。熱心にスカウトしてくれたサガン鳥栖に入団し、憧れのプロサッカー選手になることができました。
プロ入り2年目の2014年には日本代表に抜擢。同じ東福岡高校の先輩である長友佑都さんなどと一緒に戦いました。
しかしその後、松本、長崎、大分、山形とチームを転々としていく中で、日本代表の肩書き荷が重く感じることもありました。
2019年に所属していたモンテディオ山形との契約が終了。次のチームを探していたときに、現在タイ代表監督を務める石井正忠さんが指揮するタイクラブに声をかけていただき、夫婦でタイに移住し、新天地で挑戦することを決めました。

タイでは2チームを経験し、2022年に契約終了。「また日本でサッカーをやりたいな」と考えて帰国したものの、なかなかチームが決まりません。
次のキャリアを考えたときに思い浮かんだのが、タイで食べたフルーツの「ドリアン」でした。大人になって、固定観念をまるっきり覆された衝撃はいまでも忘れられません。

――めっちゃくさい! これ本当に口の中に入れるのか?!

強烈な匂いにひるみつつ、少しだけ口に入れてみました。最初は味よりも匂いが勝って、「うえっ、これは食べられないかも」と思ったのですが、それなりの金額だったので、もったいないと思い直し、鼻をつまんで食べてみたんです。
すると、甘みと旨みが脳にガツンときました。

――あれ? これ、めっちゃおいしいかも!

この驚きとドリアンのおいしさをみんなに知ってほしい。
タイで自分のこだわりのドリアンを作ってみたいと考えて、2023年に再びタイで暮らすことを決断しました。

いまはオーガニック農家に弟子入りして、農業の基礎を学びながら、実際にドリアンの栽培もさせてもらっています。野菜や果物も人間と同じで、免疫力があれば、無農薬でも虫に食べられることがありません。農業の奥深さ、面白さを日々感じています。

これまでサッカーしか知らなかった自分。新しい世界に踏み出し、たくさんの人と出会い、多くを吸収しています。サッカー選手を完全には引退しないという心境で始めた農業でしたが、楽しすぎてサッカーへの未練は一気に消し去られました。この先は、自分がよりワクワクする方向に進んでいきたい。いま一番ワクワクするのがドリアンです。「ドリアン博士」になり、ドリアンの魅力を多くの人に伝えていきたいと思っています。

(構成/尾越まり恵)

坂井達弥 YouTubeチャンネル

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