保育士/えほんのおうち ゆめのき文庫 主宰 石浜繁子さん

保育士/えほんのおうち ゆめのき文庫 主宰 石浜繁子さん

54歳から保育所でパート職員として働き始め、64歳で保育士の資格を取得した石浜繁子さん。2018年に自宅の居間を改装して「えほんのおうち ゆめのき文庫」を開設した。保育士時代に多くの親子の問題を目の当たりにし、「孤独な育児に苦しんでいる母親たちの居場所を作りたい」と考えたからだ。後編では、ゆめのき文庫開設の経緯や、石浜さんの絵本への思いについて紹介する。
 54歳から70歳までの約16年間、保育所で働き続けた石浜さんは、多くの親子を見てきた。

 「いまはみんな夫婦共働きでしょ。仕事を頑張った後、お母さんたちは急いで子どもたちを迎えに来ます。そのとき、多くの母親は真っ先に先生のところに来てありがとうございました、って言うんですよ。だから私は、お礼はいいから、まずは子どものところに行って抱きしめてあげてくださいって言うの。
 私は戦後の貧しい時代に育ったから、いまの母親たちを見て『昔はもっと大変だったのよ』と言いたくなるときもあります。でも、時代が違います。何より、私の時代はまわりにたくさん助けてくれる人がいたの。いまのお母さんは誰にも相談できずに孤立しています。他人事じゃないのね。自分の娘のように感じて、何とかしてあげたいと思ってきました」

 誰にも相談できず、育児ノイローゼや育児うつになった母親もいた。そんな親子と接するうちに、石浜さんは「居場所をつくりたい」と考えるようになる。

 「ゆめのき文庫の構想を友達に話していたんです。70歳で保育士の仕事を辞めて5年くらい経ったときかな、友達に『あなた、文庫をやるやると言っているけど、いつやるのよ?』と言われたんです。夫は亡くなっているし反対する人もいない。『じゃあ、やるわ』と言って始めたのが2018年です」

 量販店で買った本棚を居間に備え付け、最初は保育士時代に集めた絵本400冊から始めた。少しずつ買い揃え、いまは寄贈も含めて2000冊もの絵本が並ぶ。子どもが触るものだからと新品を用意している。

えほんのおうち ゆめのき文庫 主宰 石浜繁子さん

ゆめのき文庫には本棚に収まりきらないほどの絵本がズラッと並ぶ


 「夫の仏壇もそのまま居間に置いてあるんです。仏壇を見たことのない子どももいるからそのままでいいですよってみんなに言われて。ここに来たお母さんたちは、『実家に帰ってきたみたい』と言ってくれます」

何か1つ、光るものがあれば生きていける

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